はじめに
SOHO や企業の拠点ルータとして、デファクトスタンダードである YAMAHA RTX シリーズ。 かつては「静的ルーティング(Static)」や「OSPF」での運用が主でしたが、最近では AWS Direct Connect や Azure ExpressRoute といったクラウド接続、あるいは IP-VPN などの閉域網接続において、BGP(Border Gateway Protocol)を使用するケースが増えてきています。
しかし、普段 Cisco IOS に慣れ親しんだエンジニアほど、YAMAHA 独自の 「BGP 設定の作法」 に戸惑うことが多いと思います。 「network コマンドが見当たらない…」 「import って何? 受信設定じゃないの?」
本記事では、Cisco ルータを対向とした実例を通して、YAMAHA 流の BGP 設定を分かりやすく解説します。
- Cisco とは違うYAMAHA BGP の独特な概念
- YAMAHA(RTX) ⇔ Cisco 間の具体的な BGP 設定コマンド
- 経路フィルタリングとステータス確認の方法
構成図と前提環境
今回の検証環境は以下の通りです。 YAMAHA RTX と Cisco ルータを eBGP (External BGP) で直結し、互いの持っているネットワーク情報を交換します。

【構成のポイント】
- 接続リンク:
10.1.1.0/30のセグメントで直結します。 - 広告するネットワーク (Loopback):
- 今回は検証用として、実際の LAN 機器の代わりに ループバックインターフェース(Loopback)を作成し、そのネットワークを BGP で広告します。
- これにより、LAN ケーブルを繋ぎ変えたりせずに BGP の経路交換を確認できます。
| 項目 | YAMAHA RTX(自局) | Cisco IOS(対向) |
|---|---|---|
| AS 番号 | 65000 | 65001 |
| 物理 IP(WAN) | 10.1.1.1/30 | 10.1.1.2/30 |
| BGP Router-ID | 192.168.100.101 | 1.1.1.101 |
| 広告する経路 | 192.168.100.0/24 | 1.1.1.0/24 |
YAMAHA BGP の考え方(Cisco との違い)
設定に入る前に、YAMAHA RTX の BGP における最大のハマりポイントを解説します。 もしあなたが Cisco エンジニアなら、BGP で経路を広告する際にこう考えるはずです。
「よし、router bgp モードに入って、network 192.168.100.0 コマンドを叩こう」
しかし、YAMAHA RTX に network コマンドは存在しません。 では、どうやって自分の持っているネットワークを相手に伝える(広告する)のでしょうか?
「network」ではなく「import」を使う
YAMAHA の BGP は、「自分のルーティングテーブルにある経路情報を、BGP の世界に『吸い上げて(Import)』、それを相手に投げる」 という考え方をします。
Cisco 用語で言うところの 「再配送(Redistribute)」 に近いです。
- Cisco の場合
-
networkコマンドで、広告したいネットワークをピンポイントで指定する(生成する)
- YAMAHA の場合
-
bgp importコマンドで、「静的経路 (Static)」 や 「直結経路 (Direct)」 を BGP プロセスに取り込む。- そのままだと全部の経路を広告してしまうので、「フィルタ」 をかけて広告したい経路だけを選別する。
つまり、YAMAHA で BGP を設定する際は、 「まずルーティングテーブルに経路が存在すること」 「その経路の種類(static や direct)を指定して BGP に取り込むこと」 の2ステップが必要です。

💡 ポイント YAMAHA の bgp import は、「相手から経路をもらう(受信)」設定ではありません。 「自分の持っている経路を BGP に渡す(送信準備)」 設定だと覚えてください。
YAMAHA RTX 側の設定
RTX1200(および現行機種)での設定例です。 大きく分けて 「基本設定」「広告設定(送信)」「フィルタ設定(受信)」 の3ステップで記述します。
まずは BGP を有効化し、AS 番号と対向(Neighbor)を指定します。
# ループバック(広告用ネットワーク)の作成
ip loopback1 address 192.168.100.101/24
# --- BGP 基本設定 ---
# 1. BGP の有効化
bgp use on
# 2. 自局の AS 番号
bgp autonomous-system 65000
# 3. Router-ID の設定 (ユニークなIPを指定)
bgp router id 192.168.100.101
# 4. ネイバー設定 (対向 AS:65001, 対向IP:10.1.1.2)
# "neighbor 1" の "1" は設定管理用の識別番号です
bgp neighbor 1 65001 10.1.1.2 hold-time=180ここが先ほど解説した 「吸い上げ (Import)」 の部分です。 「フィルタ1番にマッチする経路だけを、static(または direct)から吸い上げて AS65001 に広告せよ」という命令を書きます。
# --- 経路広告 (Network コマンドの代わり) ---
# 1. 送信フィルタの定義 (広告したい経路を指定)
# "export filter" = 外に出す経路の許可リスト
bgp export filter 1 include 192.168.100.0/24
# 2. 経路の吸い上げ (ここが重要!)
# 「AS 65001 に対して、static (と direct) 経路の中から
# フィルタ1 に合致するものだけを import (BGPに取り込み) する」
bgp import 65001 static filter 1
bgp import 65001 direct filter 1


ループバックインターフェースは機種や設定により static ではなく direct 扱いになることがあるため、念のため両方記述しておくと確実です。
対向から不要な経路をもらわないよう、受信フィルタを設定します。 YAMAHA では bgp import filter が 「受信フィルタ」 を意味します(ややこしいですね…)
# --- 経路受信フィルタ (Distribute-list in の代わり) ---
# 1. 受信フィルタの定義 (受け取りたい経路を指定)
# 対向の Loopback (1.1.1.0/24) のみ許可する例
bgp import filter 10 include 1.1.1.0/24
# ※ YAMAHA の場合、import filter を定義した時点で全ネイバーに適用される挙動となるため注意最後に以下のコマンドで設定を確定・反映させます。
bgp configure refreshCisco ルータ側の設定
比較として、対向となる Cisco ルータ(IOS)の設定も見てみましょう。 YAMAHA の設定と見比べると、思想の違いがよく分かります。
! --- 基本設定 ---
router bgp 65001
bgp router-id 1.1.1.101
bgp log-neighbor-changes
! --- ネイバー設定 ---
neighbor 10.1.1.1 remote-as 65000
! --- 経路広告 (Network コマンド) ---
! YAMAHA の "bgp import ... static" に相当
address-family ipv4
network 1.1.1.0 mask 255.255.255.0
! ネイバーの有効化
neighbor 10.1.1.1 activate
exit-address-family💡 設定コマンドの対比まとめ
ここを理解すれば、迷いません。
| 動作 | Cisco(IOS) | YAMAHA(RTX) |
|---|---|---|
| 経路を広告する | network 192.168.x.x | bgp import static …(Static 経路を BGP へ輸入して渡す) |
| 受信経路を制限 | distribute-list … in | bgp import filter …(BGP に来た経路を輸入時に濾過する) |
| 送信経路を制限 | distribute-list … out | bgp export filter …(BGP から出す時に濾過する) |
確認コマンドとステータスの見方
設定が終わったら、BGP ネイバーが正常に確立し、経路情報の交換が行われているかを確認します。
① ネイバー状態の確認(Established)
まずは「ネイバーと握手ができているか」を確認します。
show status bgp neighbor 10.1.1.2▼ 出力例とチェックポイント
BGP neighbor is 10.1.1.2, remote AS 65001, local AS 65000, internal link
BGP version 4, remote router ID 1.1.1.101
BGP state = Established, up for 00:02:30 <-- ★ここが重要!
Last read 00:00:46, hold time is 180, keepalive interval is 60 seconds
...BGP state = Established: 正常に接続されています。成功です。Active/Connect/Idle: 接続できていません。Ping が通るか、AS 番号や IP 設定が間違っていないか確認してください。
② 受信ルートの確認(Received Routes)
対向ルータ(Cisco)から、経路情報をもらえているか確認します。
show status bgp neighbor 10.1.1.2 received-routes▼ 出力例
Total routes: 1
*: valid route <-- 「*」がついているか確認
Network Next Hop Metric LocPrf Path
* 1.1.1.0/24 10.1.1.2 0 100 IGP*(アスタリスク): 有効なルートとしてルーティングテーブルに載ったことを意味します。- もし表示されない場合は、対向側の
network設定や、自局の受信フィルタ (bgp import filter) を見直しましょう。
③ 送信ルートの確認(Advertised Routes)
自局(YAMAHA)から、対向へ経路情報を渡せているか確認します。 「設定したはずなのに相手に届いていない」という時はここを見ます。
show status bgp neighbor 10.1.1.2 advertised-routes▼ 出力例
Total routes: 1
*: valid route
Network Next Hop Metric LocPrf Path
* 192.168.100.0/24 10.1.1.1 100 IGP- ここに
192.168.100.0/24が表示されていれば、YAMAHA 側の「吸い上げ設定 (bgp import ... static)」は成功しています。
まとめ
本記事では、YAMAHA RTX ルータにおける BGP 設定方法を、Cisco ルータとの接続事例を通して解説しました。
YAMAHA の BGP 設定における最大のポイントは、「network コマンドがない」 ということです。 最初は戸惑うかもしれませんが、以下のイメージさえ持てば迷うことはありません。
自分の持っている静的経路や直結経路を、BGP の世界に輸入(import)して広告する。



今回は対向を Cisco ルータとして解説しましたが、この「対向ルータ」を AWS Direct Connect や Azure ExpressRoute に置き換えても、BGP の設定の考え方は全く同じです。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。









