はじめに
YAMAHA RTX シリーズは、拠点ルーターや PPPoE 終端として広く使われており、OSPF による動的ルーティングにも対応しています。複数拠点を OSPF で接続する構成や、既存の Cisco・FortiGate と相互接続する構成で利用する機会も少なくありません。
RTX の OSPF は、Cisco や FortiGate とは設定の組み立て方が異なります。router ospf のようなプロセス配下に network 文を並べるのではなく、エリアを宣言したうえで、各インターフェースにエリアを割り当てていくのが基本です。さらに、設定しただけでは反映されず、反映用のコマンドを実行して初めて有効になる、という RTX 特有の作法もあります。
本記事では、YAMAHA RTX(RTX830 / 1210 / 1220 / 1300 / 3510 / 5000 などの現行機種を想定)での OSPF 設定を、実機コマンドで解説します。OSPF の仕組み(LSA・エリア・コスト)の基礎は、関連記事『OSPF とは|仕組みを図解で理解する LSA・エリア・コストの基礎』で扱っています。
ospf use onからip interface ospf areaまでの設定の流れ- シングルエリア・マルチエリア(ABR)構成とルート集約
- 再配布(
ospf import)と PP インターフェースの扱い - 設定を反映させる
ospf configure refreshの役割 show status ospf neighborなどを用いた動作確認
RTX の OSPF は、ospf area でエリアを宣言し、ip lan1 ospf area ... のように各インターフェースをエリアへ割り当て、ospf use on で機能を有効化したうえで、ospf configure refresh で設定を反映する、という流れが基本です。コマンド体系が Cisco・FortiGate と異なる点を最初に押さえておくと、設定とトラブル切り分けがスムーズになります。
YAMAHA RTX の OSPF 設定の全体像
具体的な手順に入る前に、RTX の OSPF 設定の組み立て方を整理します。

設定の流れ
RTX の OSPF 設定は、おおむね次の順序で構成します。
ospf router id: ルーター ID を設定する(省略時はインターフェースの IP アドレスから自動選出)。ospf area: ルーターが属するエリアを宣言する(スタブ指定や認証もここで設定)ip <interface> ospf area: 各インターフェースを、所属させるエリアに割り当てる(ここで OSPF が有効化される)ospf use on: OSPF 機能を有効化する。ospf configure refresh: 設定を反映する。
Cisco の network 文に相当する「どのインターフェースで OSPF を動かすか」の指定を、RTX ではインターフェース側の ip <interface> ospf area で行うのが特徴です。
Cisco / FortiGate との違い
同じ OSPF でも、エリアへの参加方法の考え方が異なります。
Cisco / FortiGate:
ルーティングプロセス(router ospf / config router ospf)配下で、network(プレフィックス)とエリアを対応づける。
YAMAHA RTX:
エリアを ospf area で宣言し、各インターフェースに ip <interface> ospf area でエリアを割り当てる。
このため、RTX では「インターフェースにエリアを割り当てる」という視点で設定を組み立てます。なお、エリア 0(バックボーンエリア)は backbone というキーワードで指定します。
設定反映コマンドという前提
RTX の OSPF で見落としやすいのが、設定の反映です。OSPF 関連のコマンドを入力しても、それだけでは動作に反映されず、ospf configure refresh を実行して初めて有効になります。「設定したのにネイバーが上がらない」という場合、まずこの反映コマンドの実行漏れを確認します。
インターフェースは numbered である必要がある
RTX の実装では、OSPF のエリアに属するインターフェースは、IP アドレスが設定された numbered の形である必要があります。ip <interface> address で適切な IP アドレスを設定したうえで、ip <interface> ospf area を設定します。
参考: ヤマハ「OSPF 設定ガイド」(RTpro)
「OSPF のエリアに属するインターフェースは必ず IP アドレスが設定された、numbered の形でなくてはいけません。」
https://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/docs/ospf/ospf-guide.html
基本設定: シングルエリア(backbone)
まずは単一エリア(バックボーンエリア)の構成を設定します。ここでは、内部 LAN(lan1: 192.168.100.0/24、他に OSPF ルーターなし)、対向ルーターと接続する transit(lan2: 10.0.12.0/30)、ルーター ID 用のループバック(loopback1: 10.10.10.1/32)を持つ RTX を例にします。

ルーター ID とエリアの宣言
最初に、ルーター ID と、ルーターが属するエリアを宣言します。ルーター ID は省略するとインターフェースの IP アドレスから自動選出されますが、安定運用のためループバックの IP を明示的に指定する方法が推奨されます。エリア 0 は backbone というキーワードで指定します。
ospf router id 10.10.10.1
ospf area backboneインターフェースのエリア割り当て
次に、各インターフェースを ip <interface> ospf area でバックボーンエリアに割り当てます。RTX では、ここで OSPF が有効化されます。あらかじめ ip <interface> address で IP アドレスを設定しておく必要があります(numbered であること)
ip lan1 ospf area backbone passive
ip lan2 ospf area backbone
ip loopback1 ospf area backboneポイントは passive の扱いです。LAN インターフェース(broadcast)に接続するネットワークの経路は、ip interface ospf area を設定しないと他の OSPF ルーターに広告されません。一方で、その LAN に他の OSPF ルーターがいない場合、Hello を送る必要はありません。そこで、他に OSPF ルーターがいない LAN(ここでは lan1)には passive を付け、経路は広告しつつ OSPF パケットは送信しないようにします。
参考: ヤマハ「指定インタフェースの OSPF エリア設定」(RTpro)
「passive を指定しておくと、インタフェースから OSPF パケットを送信しなくなる」
https://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/manual/rt-common/ospf/ip_interface_ospf_area.html
対向ルーターと隣接を確立する lan2 には passive を付けません。ループバック(loopback1)もバックボーンエリアに割り当て、ルーター ID 兼到達確認用の経路として広告します。
設定の反映(ospf use on / ospf configure refresh)
最後に OSPF を有効化し、設定を反映します。RTX では、ここまでのコマンドを入力しただけでは動作に反映されません。ospf use on で機能を有効化したうえで、ospf configure refresh を実行して初めて設定が反映されます。
ospf use on
ospf configure refreshospf configure refresh は、エリアやインターフェースの割り当てを変更した後にも必要です。「設定を変えたのに反映されない」という場合は、このコマンドの実行漏れを最初に確認します。
シングルエリアの設定例(まとめ)
ここまでをまとめると、次のようになります。
# IP アドレスの設定
ip lan1 address 192.168.100.1/24
ip lan2 address 10.0.12.1/30
ip loopback1 address 10.10.10.1/32
# OSPF の設定
ospf router id 10.10.10.1
ospf area backbone
ip lan1 ospf area backbone passive
ip lan2 ospf area backbone
ip loopback1 ospf area backbone
ospf use on
# 設定の反映
ospf configure refreshこの状態で、対向ルーターとの間で IP の疎通が取れていれば、lan2 で OSPF の隣接確立に進みます。隣接が FULL にならない場合は、設定反映漏れやパラメータ不一致が原因となることが多く、本記事後半の「動作確認とネイバー確立の注意点」で扱います。
マルチエリア構成とルート集約
シングルエリアの構成を、マルチエリアへ拡張します。ここでは前章の RTX を ABR として扱い、lan2(10.0.12.0/30)をバックボーンエリア、lan3(10.0.13.0/30)をエリア 1 に所属させます。
エリアの追加と ABR
エリアを追加するには、ospf area でエリアを宣言し、対象インターフェースを ip <interface> ospf area でそのエリアに割り当てます。複数のエリアにまたがるインターフェースを持つことで、その RTX が ABR として動作します。
ospf area backbone
ospf area 1
ip lan2 ospf area backbone
ip lan3 ospf area 1
ospf configure refreshエリア 1 をスタブエリアにする場合は ospf area 1 stub、認証を設定する場合は ospf area の認証パラメーターを使用します。スタブの指定は、そのエリア内のすべてのルーターで一致している必要があります。
ルート集約(ospf area network / restrict)
ABR でエリア内の経路を集約して他エリアへ広告するには、ospf area network を使用します。集約せずに個々の経路を広告すると LSA が増えるため、拠点ごとにアドレスを整理している場合は集約が有効です。
ospf area network 1 192.168.128.0/20この設定により、エリア 1 内の該当経路は 192.168.128.0/20 に集約して広告されます。restrict キーワードを付けると、集約経路も含めて他エリアへ一切広告しなくなります。
ospf area network 1 192.168.128.0/20 restrict再配布(ospf import)とインターフェース調整
OSPF 以外の経路の取り込みや、インターフェース単位の調整を行います。
経路の再配布(ospf import from / filter)
スタティックルートや RIP、BGP などの経路を OSPF へ取り込むには ospf import from を使用します。取り込む経路を限定する場合は、ospf import filter でフィルターを定義し、ospf import from から参照します。
ospf import filter 1 include 192.168.0.0/24
ospf import from static filter 1
ospf configure refreshデフォルトルートを OSPF ドメインへ広告したい場合は、自身にデフォルトルートを用意したうえで、ospf import from static で取り込む形になります。再配布した経路は外部経路(external)として扱われます。Cisco / FortiGate での再配布(redistribute / config redistribute)に相当する操作で、機種ごとの設定例は関連記事『Cisco ルーターでの OSPF 設定手順とマルチエリア構成のコンフィグ例』も参照してください。
PP インターフェースの扱い(外部経路)
RTX 固有の注意点として、PP インターフェース(PPPoE や専用線など)の扱いがあります。PP インターフェースに ip pp ospf area を設定していない場合、そのインターフェースが接続するネットワークへの経路は外部経路として扱われ、他の OSPF ルーターへ広告するには ospf import の設定が必要になります。
参考: ヤマハ「指定インタフェースの OSPF エリア設定」(RTpro)
「PP インタフェースに対して ip interface ospf area コマンドを設定していない場合は、インタフェースが接続するネットワークへの経路は外部経路として扱われる。」
https://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/manual/rt-common/ospf/ip_interface_ospf_area.html
PP インターフェースを OSPF のエリア内インターフェースとして扱いたい場合は、ip pp ospf area を設定します。
ネットワークタイプ・コスト・タイマー
インターフェース単位のパラメーターは、ip <interface> ospf area の後ろにオプションとして指定します。ネットワークタイプ(broadcast / point-to-point / point-to-multipoint / non-broadcast)、コスト、プライオリティ、Hello / Dead タイマーなどを調整できます。ネットワークタイプとタイマーは、対向と一致していないと隣接が確立しない点に注意が必要です。
ip lan2 ospf area backbone type=point-to-point hello-interval=10 dead-interval=40コストは cost= で個別に指定できます(既定値は LAN インターフェースで 1、トンネルで 1562、PP は回線速度に依存)。バックアップ回線のコストを高くすれば、主系・副系を分ける経路制御ができます。DR の選出に関与させたくないインターフェースは priority=0 を指定します。各パラメーターの詳細は公式コマンドリファレンスを参照してください(参考: ヤマハ「指定インタフェースの OSPF エリア設定」 https://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/manual/rt-common/ospf/ip_interface_ospf_area.html )
動作確認とネイバー確立の注意点
設定の反映後は、OSPF が想定どおり動作しているかを確認します。RTX では show status ospf ... 系のコマンドを使用します。
動作確認コマンド(show status ospf …)
主に次のコマンドで、隣接・インターフェース・経路を確認します。
show status ospf neighbor: 隣接ルーターと状態を確認する。show status ospf interface: インターフェースのエリア・コスト・タイプ・状態を確認する。show ip route: ルーティングテーブルに載った OSPF 経路を確認する(Oが OSPF、IAがエリア間、E1/E2が外部経路)
# show status ospf neighbor
Neighbor ID Pri State Dead Time Address Interface
10.10.10.2 1 FULL/DR 00:00:36 10.0.12.2 LAN2State が FULL(マルチアクセスでは FULL/DR・FULL/BDR、DROther 同士は FULL/DROTHER)であれば、隣接が確立しています。インターフェースのエリアやタイプは show status ospf interface で確認します。
# show status ospf interface
LAN2: Area backbone
Router ID: 10.10.10.1, Interface address: 10.0.12.1/30
Interface type: BROADCAST cost=1
Interface state: BDR priority=1ネイバー確立の注意点(RTX 固有のポイント)
RTX で「設定したのにネイバーが上がらない」という場合、次の点を順に確認します。
1. 設定反映コマンドの実行漏れ
最も多いのが ospf configure refresh の実行漏れです。エリアやインターフェースの割り当てを変更した後は、必ずこのコマンドで反映します。
2. インターフェースが numbered か
OSPF のエリアに属するインターフェースは、IP アドレスが設定された numbered の形である必要があります。ip <interface> address で IP アドレスが設定されているかを確認します。
3. transit インターフェースに passive を付けていないか
対向と隣接を確立するインターフェース(transit)に誤って passive を付けると、Hello を送信しないため隣接が確立しません。passive は、他に OSPF ルーターがいない LAN にのみ付けます。
4. ネットワークタイプ・タイマーの一致
ip <interface> ospf area の type= や Hello / Dead タイマーが対向と一致していないと、隣接は確立しません。
これら以外の一般的な切り分け(エリア ID・MTU・認証の一致、状態別の原因)は、ベンダーを問わず共通です。横断スポークの関連記事『OSPF ネイバーが確立できない原因|状態別の切り分け手順』を、あわせて参照してください。
まとめ
YAMAHA RTX の OSPF は、ospf area でエリアを宣言してインターフェースに割り当て、ospf use on と ospf configure refresh で反映するのが基本です。Cisco / FortiGate とはコマンド体系が異なり、設定反映コマンドや PP インターフェースの扱いに注意します。隣接が確立しない場合は、まず反映漏れと numbered 要件を確認します。
- ospf area 宣言と ip interface ospf area によるエリア割り当て
- ospf use on と ospf configure refresh による有効化・反映
- 他に OSPF ルーターがいない LAN への passive 指定
- ospf area network / restrict によるエリア間集約
- ospf import from / filter による経路の再配布
- PP インターフェースの外部経路扱いと ip pp ospf area
- show status ospf neighbor / interface での動作確認
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
