はじめに
MTU(Maximum Transmission Unit)は 1 回の通信で送れる IP パケットの最大サイズ、MSS(Maximum Segment Size)はそのうち TCP データ部に使える最大サイズです。この 2 つは回線・サービスごとに規定値が異なり、フレッツ光は PPPoE で 1454、一般的なイーサネットは 1500 と、同じ光回線でも値が変わります。設定値が回線の規定より大きいと、パケットの分割や破棄が起きて通信が不安定になったり、一部のサイトだけ開けないといった切り分けにくい不具合につながります。
やっかいなのは、自分が契約している回線・サービスの規定 MTU がすぐに分からない点です。ISP のサポートページを探しても、PPPoE か IPoE かで値が変わり、IPoE(IPv4 over IPv6)では実効 MSS がさらに縮む場合もあります。
- フレッツ光・主要 ISP・VPN・モバイル回線の規定 MTU と算出 MSS の一覧
- PPPoE 系と IPoE 系で MTU / MSS がどう変わるか
- 公開値のない回線(非公開・未確認)の見分け方と扱い方
- IPoE の IPv4 over IPv6 で実効 MSS がさらに縮む理由と注意点
結論を先に示すと、NTT 東西のフレッツ系アクセスを使う回線は、PPPoE で MTU 1454(MSS は IPv4 で 1414、IPv6 で 1394)、IPoE で MTU 1500(MSS は IPv4 で 1460、IPv6 で 1440)にほぼ収斂します。光コラボやドコモ光、フレッツ系アクセスを使う主要 ISP のアクセス区間も、この値を当てはめやすいのが要点です。一方で、auひかり・J:COM・モバイル各社はサービス固有の MTU を公開していないことが多く、その場合は規定値を断定せず、ルーターの自動調整と PMTUD を前提に扱うほうが安全です。
自分の回線の MTU から MSS を計算したい場合は、『MTU/MSS 計算ツール』で値を入力するとその場で算出できます。
早見表の前提と MSS の算出ルール
早見表の値を正しく読むために、本記事で MSS を算出している前提を先に整理します。
MSS は、MTU から IP ヘッダーと TCP ヘッダーを引いた TCP データ部の最大長です。ヘッダーサイズは IPv4 で 20 バイト、IPv6 で 40 バイト、TCP で 20 バイトなので、算出式は次のとおりです。
- MSS(IPv4)= MTU − 20(IP)− 20(TCP)= MTU − 40
- MSS(IPv6)= MTU − 40(IP)− 20(TCP)= MTU − 60
たとえば MTU 1454 なら、IPv4 の MSS は 1414、IPv6 の MSS は 1394 です。MTU 1500 なら、IPv4 で 1460、IPv6 で 1440 になります。本記事の早見表は、すべてこの単純計算(TCP オプションなし)で値を出しています。
PPPoE の扱いには注意が必要です。PPPoE では PPPoE ヘッダーなどのオーバーヘッド 8 バイトが加わりますが、フレッツ系の「MTU 1454」は、このオーバーヘッドを織り込んだ後の値として公開されています。そのため本記事では、公開されている MTU からさらに PPPoE の 8 バイトを二重に引くことはしません。フレッツ光の PPPoE で MTU 1454 / MSS 1414 となる点は、NTT 東日本も案内しています。
参考: NTT 東日本 よくあるご質問(フレッツ接続ツール以外のソフトウェア利用時の注意)
「MTU を 1454B 以下(MSS を 1414B 以下)に設定していただく必要があります」
http://faq.web116.jp/faq/show/168
もう 1 点、TCP オプションが付く場合、実際に載せられる TCP データ量は算出 MSS よりさらに小さくなります。RFC 6691 は、オプションを含める送信側はその分だけ TCP データ長を減らす必要があるとしています。
参考: RFC 6691 – TCP Options and Maximum Segment Size (MSS)
“the sender must reduce the amount of TCP data in any given packet”
(送信側は、1 パケットに載せる TCP データ量を減らす必要がある)
https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc6691
したがって早見表の MSS は、TCP オプションを使わない場合の上限値と捉えるのが実務的です。タイムスタンプなどのオプションが入る通信では、実効値がこれより小さくなる前提で設計することをおすすめします。
なお、MTU / MSS の仕組みそのものや、フラグメント・PMTUD の詳細については、概念を整理した関連記事『MTU/MSS とは|PPPoE・IPsec で通信が止まる原因と対策』を参照してください。
フレッツ系と主要 ISP の MTU/MSS 早見表
まず、利用者が最も多いフレッツ系アクセスと、その上で動く主要 ISP の早見表です。フレッツ系は接続方式で規定 MTU が決まり、そこから MSS が一意に算出されます。ISP 各社のアクセス区間もフレッツ系のため、以下はアクセス網ベースの代表値として扱えます。
| 回線・サービス | 接続方式 | 規定 MTU | MSS(IPv4) | MSS(IPv6) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| フレッツ光・光コラボ系 | PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | 超過 IPv4 は分割転送または破棄 |
| フレッツ光・光コラボ系 | IPoE(IPv6) | 1500 | 1460 | 1440 | 超過パケットは破棄。IPv4 側は下段注意点参照 |
| フレッツ光・光コラボ系 | IPv6 PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | PPPoE 接続の IPv6。超過パケットは破棄 |
| OCN(IPoE・IPoE アドバンス) | IPoE(IPv4 over IPv6) | 1500 | 1460 | 1440 | アクセス網ベース。VNE/CPE の追加調整は別 |
| OCN(既存 PPPoE) | PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | フレッツ系アクセス仕様ベースの代表値 |
| So-net v6プラス | IPoE(IPv4 over IPv6) | 1500 | 1460 | 1440 | アクセス網ベース。MAP-E の追加分は別 |
| So-net(PPPoE) | PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | 対象コースのみ |
| IIJmioひかり IPoEオプション | IPoE(transix) | 1500 | 1460 | 1440 | アクセス網ベース。DS-Lite の追加分は別 |
| IIJ・IIJmioひかり(PPPoE) | PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | PPPoE 系代表値 |
| BIGLOBE IPv6オプション | IPoE(IPv4 over IPv6) | 1500 | 1460 | 1440 | アクセス網ベース |
| BIGLOBE IPv6オプションライト | IPv6=IPoE / IPv4=PPPoE | 1500 / 1454 | 1460 / 1414 | 1440 / 1394 | 到達先で系統が分かれる |
| BIGLOBE(PPPoE) | PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | PPPoE 系代表値 |
| SoftBank 光 IPv6高速ハイブリッド | IPoE(IPv6 IPoE + IPv4) | 1500 | 1460 | 1440 | アクセス網ベース |
| SoftBank 光(PPPoE) | PPPoE | 1454 | 1414 | 1394 | 固定 MTU 非公表。アクセス網ベース推定 |
PPPoE 系(規定 1454 → MSS 1414/1394)の読み方
PPPoE でフレッツ系アクセスを使う場合、規定 MTU は 1454 に収斂します。算出すると MSS は IPv4 で 1414、IPv6 で 1394 です。この値は再現性が高く、ルーターに手動設定する際の基準にしやすい値です。PPPoE で 1454 となる仕組みの根拠や機種別の設定方法は、関連記事『PPPoE 接続の仕組みと設定の基本|主要 4 メーカーの設計比較』にまとめています。
IPoE 系(規定 1500 → MSS 1460/1440)の読み方
IPoE(IPv6)では網内で追加ヘッダーが付かないため、アクセス区間の MTU は 1500、算出 MSS は IPv4 で 1460、IPv6 で 1440 です。ただし、v6プラス・transix・OCN バーチャルコネクトなどの IPv4 over IPv6 を伴うサービスでは、IPv4 側の実効 MSS がこれよりさらに縮む場合があります。この点は後述の注意点で詳しく扱います。
参考: NTT 東日本 技術参考資料 IP 通信網サービスのインタフェース(フレッツシリーズ 第三分冊)
「IP 通信網における IPv6(IPoE) 通信の MTU の値は 1500byte です」
https://flets.com/pdf/ip-int-3.pdf
なお、フレッツ系では IPv4(PPPoE 系)が超過パケットを分割転送または破棄するのに対し、IPv6(IPoE) は破棄します。同じフレッツ系でも挙動が異なる点は、トラブル切り分けの手がかりになります。
VPN・CATV・モバイル回線の MTU/MSS 早見表
続いて、フレッツ・VPN 系と、公開値のない CATV・モバイル回線の早見表です。VPN 系は NTT 東西が規定値を公開している一方、auひかり・J:COM・モバイル各社はサービス固有の MTU を公開していないことが多く、その場合は無理に断定せず「非公開・未確認」と扱うほうが安全です。
| 回線・サービス | 接続方式 | 規定 MTU | MSS(IPv4) | MSS(IPv6) | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| フレッツ・VPN ゲート | 閉域 VPN | 1454 | 1414 | 1394 | 超過時は網内で分割転送が発生する場合あり |
| フレッツ・VPN ワイド | 閉域 VPN | 1454 | 1414 | 1394 | 超過時は網内で分割転送が発生する場合あり |
| フレッツ・VPN プライオ | 閉域 VPN | 1444 | 1404 | 1384 | 代表値。カスタマイズ設定により変動し得る |
| フレッツ・VPN アドバンス | 閉域 VPN | 非公開・未確認 | — | — | 2026 年提供開始。固有 MTU の公開資料は未確認 |
| auひかり ホーム/マンション | DHCP 等 | 非公開・未確認 | — | — | 住宅向け公開資料で固有 MTU 未確認 |
| auひかり ビジネス | IPoE または PPPoE | 非公開・未確認 | — | — | 接続方式は開通通知書で通知。MTU 未確認 |
| J:COM NET | DHCP / IPoE 相当 | 非公開・未確認 | — | — | PPPoE は使わない案内あり。MTU 未確認 |
| J:COM NET 光 on auひかり | auひかり系 | 非公開・未確認 | — | — | 公開資料で MTU 未確認 |
| ドコモ home 5G・mobile | 5G/LTE モバイル | 非公開・未確認 | — | — | 公開 MTU 未確認 |
| au Speed Wi-Fi HOME 5G・mobile | 5G/LTE モバイル | 非公開・未確認 | — | — | 公開 MTU 未確認 |
| SoftBank Air・mobile | 4G/5G・FWA | 非公開・未確認 | — | — | 公開 MTU 未確認 |
| 楽天モバイル・Rakuten Turbo | 4G/5G・FWA | 非公開・未確認 | — | — | 公開 MTU 未確認 |
公開値のない回線(非公開・未確認)の扱い方
auひかり・J:COM・モバイル/FWA 各社は、公開ドキュメントが接続方式や機器設定の説明にとどまり、事業者としての規定 MTU を明示しないことが多い状況です。公開値が見つからない回線に対して、1500 や 1492 を固定値として当てはめるのは避けるほうが安全です。公式値が必要な場合は個別の技術窓口へ確認し、そうでなければルーターの自動調整と PMTUD、必要に応じた MSS クランプを前提に扱うと、設定誤りによる不具合を避けやすくなります。
参考: NTT 東日本「フレッツ・VPN プライオ」VPN 装置下部ルーター設置時の設定資料
「フレッツ・VPN プライオの MTU 値は 1444byte(フレッツ・VPN ワイド/フレッツ・VPN ゲートの MTU 値は 1454byte)」
https://business.ntt-east.co.jp/service/vpnprio/download/setting_tunnel.pdf
早見表を正しく読むための注意点
早見表の値は接続方式ベースの基準ですが、実運用ではさらに縮む場合や、超過時の挙動が回線ごとに異なる点に注意が必要です。ここでは特にハマりやすい 2 点を整理します。
IPoE・IPv4 over IPv6 では実効 MSS がさらに縮む
早見表の IPoE 行にある MSS 1460 は、あくまで IPv6(IPoE) のアクセス網ベースの基準値です。一方で、v6プラス・transix・OCN バーチャルコネクトなどは IPv4 over IPv6 を使うため、IPv4 パケットを IPv6 でカプセル化します。このとき、IPv4 側のトンネル MTU は 1500 − IPv6 ヘッダー 40 = 1460 となり、実効の IPv4 MSS は 1460 − 40 = 1420 に縮むのが標準的な値です。
つまり同じ IPoE でも、IPv6 のネイティブ通信では MSS 1460、IPv4 over IPv6 の IPv4 通信では実効 1420 と、到達先で使える値が変わります。ルーター側で MSS を 1420 にクランプする設計が、フラグメントやスループット低下を避けるうえで有効です。MAP-E・DS-Lite の仕組みと機種別の設定方法は、関連記事『IPoE(MAP-E・DS-Lite)の仕組みと PPPoE との違い』にまとめています。
MTU 超過時の挙動差(破棄と網内分割)
規定 MTU が同じでも、超過パケットの扱いは回線・方式で異なります。フレッツ系では、IPv6(IPoE) と IPv6(PPPoE) が超過パケットを破棄するのに対し、IPv4(PPPoE 系)とフレッツ・VPN ゲート/ワイドは網内で分割転送が発生する場合があります。IPv6 で破棄となるのは、IPv6 ではルーターが経路上でフラグメントを行わない仕様のためです。
参考: RFC 8200 – Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification
“fragmentation in IPv6 is performed only by source nodes, not by routers”
(IPv6 のフラグメントは送信元ノードのみが行い、ルーターは行わない)
https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc8200.html
このため IPv6 では、経路上に ICMPv6 を返さない機器があると、送信元がパケットを縮小できず通信が止まる PMTU ブラックホールが起きやすくなります。性能劣化やブラックホール障害の切り分けでは、MTU 値だけでなく「超過時に破棄されるのか分割転送されるのか」まで見ることが、原因特定の手がかりになります。
まとめ
回線別の MTU/MSS は、接続方式が分かれば大半が一意に決まります。フレッツ系アクセスの値を基準に置きつつ、公開値のない回線を断定せず、IPv4 over IPv6 では実効値が縮む前提で扱うことが、設定誤りによる不具合を避けるうえで有効です。
- フレッツ系アクセスは PPPoE で MTU 1454、IPoE で 1500 に収斂
- PPPoE 系の算出 MSS は IPv4 が 1414、IPv6 が 1394
- IPoE 系のアクセス網基準 MSS は IPv4 が 1460、IPv6 が 1440
- IPv4 over IPv6 では実効の IPv4 MSS が 1420 に縮小
- フレッツ・VPN はゲート/ワイドが 1454、プライオが 1444
- auひかり・J:COM・モバイルは公開値がなく非公開・未確認
- 超過時の挙動は IPv6 が破棄、IPv4/VPN が網内分割で相違
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
