はじめに
Cisco で SASE / SSE を検討する際、従来は Umbrella(DNS セキュリティ)や Secure Internet Gateway(SIG)など複数の製品が関わり、構成が分かりにくい面がありました。現在は、これらの機能が Cisco Secure Access という SSE サービスに統合され、Duo・ISE・Catalyst SD-WAN といった Cisco の資産と組み合わせて SASE を構成する形になっています。
つまずきやすいのは、Secure Access が Umbrella などから何を引き継いだのか、そして Cisco の既存資産とどう組み合わせるのか、という点です。本記事では、Cisco の SASE の全体像を整理したうえで、主要コンポーネントと設計ポイント、導入の流れ、よくあるトラブルまでを扱います。
なお、SASE / SSE そのものの定義や構成要素(SWG・CASB・ZTNA・FWaaS の役割や、SASE と SSE の違い)は、関連記事『SASE とは|SSE や ZTNA との違いと構成要素のポイント』で扱っています。本記事は、その考え方を Cisco の構成に当てはめる位置づけです。
- Cisco の SASE の全体像(Secure Access と Catalyst SD-WAN、周辺連携の関係)
- Secure Access の主要コンポーネント(SWG・CASB・FWaaS・DNS セキュリティ)と設計ポイント
- ZTNA・VPNaaS と、Duo / ISE によるアイデンティティ・ポスチャ連携
- 導入・設定の流れ(接続方式と VPN からの移行)
- 接続や名前解決、ポリシーに関するトラブルの確認ポイント
Cisco の SASE(Secure Access)の全体像
Cisco の SASE は、セキュリティ(SSE)を担う Cisco Secure Access と、ネットワークを担う Catalyst SD-WAN を中心に、Duo・ISE・ThousandEyes などを組み合わせて構成されます。まずはその関係を整理します。

Secure Access とは(Umbrella からの位置づけ)
Cisco Secure Access は、ゼロトラストを基盤としたクラウド提供型の SSE サービスです。
参考: Cisco — Cisco Secure Access Data Sheet
“Cisco Secure Access is a cloud-delivered SSE solution, grounded in zero trust”
(Cisco Secure Access は、ゼロトラストを基盤とした、クラウド提供型の SSE ソリューションである)
https://www.cisco.com/c/en/us/products/collateral/security/secure-access/secure-access-ds.html
Secure Access は、SSE の中核機能(ZTNA・SWG・CASB・FWaaS)に加え、VPNaaS(VPN-as-a-Service)・DLP・DNS セキュリティ・RBI・DEM・生成 AI 利用のガードレール・Talos の脅威インテリジェンスなどを、1 つのライセンスと管理画面に統合しています。
Umbrella からの位置づけも押さえておくと理解しやすくなります。Secure Access は、従来の Umbrella(DNS セキュリティ)や SIG の機能を引き継ぎ、SSE の各機能を 1 つのサービスに統合・拡張したものです。
Cisco は Umbrella(DNS および SIG)から Secure Access へポリシーを移行する自動アップグレードツールも提供しています。すでに Umbrella を利用している組織は、この移行の観点も検討材料になります。
Cisco エコシステムとの関係(Duo / ISE / Catalyst SD-WAN / ThousandEyes)
Cisco の SASE の特徴は、Cisco の既存資産との統合を前提にできる点です。それぞれの役割は次のとおりです。
- Duo
-
多要素認証(MFA)とアイデンティティの確認を担います。
- ISE
-
端末のポスチャ(状態)評価やネットワークアクセス制御を担います。
- Catalyst SD-WAN(旧 Viptela)
-
拠点を IPsec トンネルで Secure Access へ接続し、ネットワーク側の最適経路を提供します。SD-WAN Manager の SSE ポリシーグループで設定します。
- ThousandEyes
-
利用者の体験やネットワークの健全性を可視化する DEM を担います。
このほか、SAML 対応の各種 IdP(AD・Azure AD・Okta・Ping など)や、Splunk・XDR などとも連携します。Duo・ISE・Catalyst SD-WAN・ThousandEyes といった Cisco 資産を持つ組織では、アイデンティティ・ポスチャ・ネットワーク・可視化を一貫して組み合わせられる点が、Cisco の SASE を選ぶ際の判断材料になります。
なお、利用できる連携や構成、対応バージョンは変わりうるため、実際の検討にあたっては Cisco の最新ドキュメントでの確認を推奨します。
Secure Access の主要コンポーネント
Secure Access は、SSE の中核機能を 1 つのサービスに統合しています。ここでは、Web・クラウド・通信全般を守る SWG・CASB・FWaaS と、初段の防御を担う DNS レイヤセキュリティを整理します。
SWG / CASB / FWaaS
それぞれの役割は次のとおりです。
- SWG(Secure Web Gateway)
-
Web トラフィックをクラウドで検査し、URL フィルタリング、マルウェア検査、SSL インスペクションなどを行います。
- CASB(Cloud Access Security Broker)
-
SaaS の利用を可視化・制御し、データ保護を行います。インラインと API ベースの両方に対応します。
- FWaaS(Cloud-Delivered Firewall)
-
Web 以外を含むトラフィックを、ポートやプロトコルによらず制御します。
参考: Cisco — Cisco Secure Access At a Glance
“Extensive security capabilities converged in one solution (ZTNA, SWG, CASB, DLP, FWaaS, DNS security, RBI, DEM and more)”
(ZTNA・SWG・CASB・DLP・FWaaS・DNS セキュリティ・RBI・DEM などの広範なセキュリティ機能を、1 つのソリューションに統合する)
https://www.cisco.com/c/en/us/products/collateral/security/secure-access/secure-access-cloud-security-sse-aag.html
これらは 1 つのライセンスと管理画面で扱い、Talos の脅威インテリジェンスが各機能の検知を支えます。設計のポイントは、トラフィックをどの機能で検査するかの振り分け(DNS で初段確認し、Web は SWG、それ以外は FWaaS へ)と、SSL インスペクションの対象範囲を決めることです。
DNS レイヤセキュリティ(Umbrella の系譜)
DNS レイヤセキュリティは、ドメイン名の解決の段階で悪性ドメインへの接続をブロックする、軽量な初段の防御です。これは Umbrella の系譜にあたる機能で、通信を確立する前にリスクを遮断できる点が特徴です。
ローミング(社外利用)の端末では、Cisco Secure Client の Roaming Security モジュール(Umbrella 由来)により、DNS と Web の保護を継続できます。DNS セキュリティを初段に置き、安全と確認されたあとに SWG や FWaaS で検査するという多層の考え方が、Secure Access の基本的な流れです。
(参考: https://www.cisco.com/c/en/us/solutions/collateral/enterprise/design-zone-security/sase-sse-ag.html )
ZTNA とアクセス制御
社内アプリケーションへのアクセスは、ZTNA(クライアントベース/ブラウザベース)と VPNaaS で実現します。アクセスの可否は、Duo や ISE と連携したアイデンティティ・ポスチャの評価に基づいて、セッション単位で判断されます。


Hybrid ZTNA と VPNaaS
Secure Access は、社内アプリへのアクセス方式として次の 3 つを提供します。
- クライアントベース ZTNA
-
Cisco Secure Client(旧 AnyConnect)の Zero Trust Access モジュールを用います。アプリ単位で、全ポート・プロトコルに対応し、QUIC / MASQUE によるマイクロトンネルで接続します。
- クライアントレス(ブラウザベース)ZTNA
-
ブラウザのみで利用でき、クライアントのインストールが不要です。Web アプリケーションに限定されますが、未管理端末や業務委託先など、クライアントを導入しにくい場面に向きます。
- VPNaaS(VPN-as-a-Service)
-
DTLS トンネルで、インターネットと社内の通信を運びます。サーバ起点やクライアント間など、ZTNA で扱いにくいアプリケーションを補完します。
社内リソースへの接続経路としては、AWS・Azure・ESXi に配置する軽量な仮想アプライアンス(Resource Connector)や、IPsec のネットワークトンネルを用います。
Cisco の特徴は、ZTNA と VPNaaS を 1 つのサービスで統合提供する点で、ZTNA に適したアプリは ZTNA で、対応しにくいアプリは VPNaaS で、という使い分け(Hybrid ZTNA)ができます。
アイデンティティ・ポスチャ連携(Duo / ISE)
ZTNA のアクセス可否は、アイデンティティとポスチャの評価に基づきます。認証は SAML 対応の IdP(AD・Azure AD・Okta・Ping など)で行い、Duo を組み合わせると多要素認証(MFA)を適用できます。ISE と連携すると、端末のポスチャ(OS やパッチの状態など)を条件に加えられます。
場所ではなくアイデンティティと端末の状態に基づき、セッション単位でアクセスを検証する点が、Cisco の ZTNA における設計の中心です。Duo・ISE といった既存の Cisco 資産を持つ組織では、これらをアクセス制御の判断材料として一貫して活用できます。
導入・設定の流れ
Secure Access はクラウドサービスのため、設定は管理ダッシュボードでの操作が中心です。大まかには「トラフィックの取り込み方式を決める → ポリシーを設計する → 段階的にロールアウトする」という流れになります。


接続方式とロールアウト(VPN からの移行)
Secure Access には、通信を取り込む(保護対象として向ける)複数の方式があります。
参考: Cisco — Troubleshooting scenarios for Cisco Secure Internet Access(Cisco Community)
“flexible connection methods including IPsec tunnels, proxy chains, PAC files”
(IPsec トンネル、プロキシチェーン、PAC ファイルなどの柔軟な接続方式)
https://community.cisco.com/t5/security-videos/troubleshooting-scenarios-for-cisco-secure-internet-access/ba-p/5368312
代表的な方式は次のとおりです。
- IPsec トンネル(ネットワークトンネルグループ、IKEv2)
-
拠点のルータやファイアウォール、SD-WAN から接続します。Catalyst SD-WAN では、SD-WAN Manager の SSE ポリシーグループでトンネルを構成します。
- Cisco Secure Client のモジュール
-
Web Roaming(ポート 80 / 443)、ZTA(全ポート・プロトコル、QUIC)、VPN を、端末の利用形態に合わせて使い分けます。
- プロキシチェーン / PAC ファイル
-
既存のプロキシ構成から段階的に向ける場合に用います。
- 社内アプリへの接続
-
Resource Connector(AWS・Azure・ESXi の仮想アプライアンス)や IPsec トンネルを用います。
端末側では、接続ごとに社内向け(SPA)・インターネット向け(SIA)・直接、のいずれに振り分けるかをトラフィックステアリングで決めます。ポリシーはポータルで一元管理し、端末にキャッシュされて定期的に同期されます。
VPN からの移行は、段階的に進めるのが現実的です。まず DNS セキュリティから始め、次に SWG / FWaaS でインターネット通信を保護し、その後 ZTNA を対象アプリから順に導入して VPN を縮小する、という順序が無理がありません。 ZTNA で扱いにくいアプリは VPNaaS で残します。Umbrella(DNS / SIG)からは自動アップグレードツールで移行でき、ポリシーは適用前にテストする機能(Proactive policy testing)も利用できます。
よくあるトラブルと対処
Secure Access のトラブルは、設定値そのものより、トラフィックの取り込みや上流への到達性、ポリシーの同期に原因があることが少なくありません。まず「どの方式でトラフィックを取り込んでいるか」を把握すると、切り分けが進めやすくなります。
接続・名前解決・ポリシーの確認ポイント
代表的な確認の観点は次のとおりです。
- 取り込み方式の確認: どのモジュール(Web Roaming / ZTA / VPN)やトンネルが有効かを確認します。意図した方式で取り込めていないと、保護が適用されません。
- 接続(上流への到達性): Roaming のモジュールが「Cloud Service Unavailable」や「Unprotected」になる場合、多くは境界のファイアウォールが上流への通信をブロックしています。
参考: Cisco — Troubleshoot Secure Access Roaming Module
“most probably perimeter firewall device is blocking egress DNS traffic to OpenDNS servers”
(多くの場合、境界のファイアウォールが OpenDNS サーバ宛ての DNS 通信をブロックしている)
https://www.cisco.com/c/en/us/support/docs/security/secure-access/222351-troubleshoot-secure-access-roaming-modul.html
この場合、上流(Ingress IP)への通信が許可されているかを確認します。なお、上流へ到達できないとフェイルオープンとなり、Web 通信が保護されないまま直接インターネットへ抜けることがある点に注意します。切り分けの際は、別のネットワーク(境界ファイアウォールのない回線)で再現するかを確認すると、原因が経路側かを判断しやすくなります。
- 名前解決(DNS)
-
FQDN で定義した社内アプリは、DNS 解決が前提になります。社内でのみ解決できるアプリでは、内部 DNS サーバの指定が必要です。
- ポリシー(同期・不一致)
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ポータルでの変更は端末へ定期的に同期されるため、即時には反映されない場合があります。反映待ちかを確認し、評価内容は Policy Debug で確認します。
確認には、ローカルのクライアントログ(DART バンドル)、HAR ファイル、Experience Insights(Cisco Secure Client に組み込まれた ThousandEyes)が役立ち、エンドポイント・ISP・アプリのどこに原因があるかを切り分けられます。上流への到達性をパケットレベルで確認したい場合は、関連記事「Wireshark の表示フィルタの使い方」も参考になります(URL は実際のパーマリンクに差し替え)。切り分けは「取り込み方式 → 上流への到達性 → 名前解決 → ポリシーの同期」の順に進めると、原因を絞り込みやすくなります。
まとめ
- Cisco の SASE は、SSE を担う Cisco Secure Access と、ネットワークを担う Catalyst SD-WAN を中心に構成します。
- Secure Access は、ゼロトラスト基盤のクラウド型 SSE で、SWG・CASB・FWaaS・DNS セキュリティ・ZTNA・VPNaaS などを 1 つに統合します。
- DNS レイヤセキュリティは Umbrella の系譜で、軽量な初段の防御を担います。
- 社内アプリへのアクセスは、クライアント/ブラウザベースの ZTNA と VPNaaS(Hybrid ZTNA)で使い分けます。
- アクセス可否は Duo(MFA)や ISE(ポスチャ)と連携し、セッション単位で検証します。
- 導入は DNS → SWG / FWaaS → ZTNA の順に段階移行し、ZTNA 非対応アプリは VPNaaS で補完します。
- 効かないときは「取り込み方式 → 上流への到達性 → 名前解決 → ポリシー同期」を確認します。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。


