Astra for Law とは|法務 AI の提供条件と導入前の確認点

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はじめに

2026 年 9 月 17 日(米国時間)、OpenAI が法律事務所とリーガルテック企業向けの新しい提供形態「Astra for Law」を発表しました。最新モデルの GPT-6 Astra に、法務業務向けの検索、指示、設定を組み合わせたものと説明されています。

この発表を受けて、法務部門から「自社でも使えるのか」「契約書や訴訟資料を入れても問題ないのか」と情シスに相談が来ることが考えられます。ただし発表の中心は米国の法律事務所であり、ChatGPT、Codex、API で提供状況が異なります。データの扱いも、API と ChatGPT Enterprise で条件が分かれています。発表内容をそのまま日本企業の法務部門に当てはめると、利用資格やデータ条件を誤って判断するおそれがあります。

この記事では、OpenAI の公式情報をもとに、通常の GPT-6 Astra との違い、2026 年 9 月 18 日時点で確認した提供条件、データ管理の確認点を整理し、情シスと法務で使える導入前の確認表を示します。

この記事でわかること
  • Astra for Law の構成と、通常の GPT-6 Astra との違い
  • ChatGPT・Codex・API ごとの提供状況と、一般企業の法務部門が対象に含まれるか
  • 米国法を対象とした検索と、OpenAI が公表した評価結果の読み方
  • API の ZDR と ChatGPT Enterprise の人によるレビュー除外の違い
  • 情シスと法務で使える導入前の確認表と、確認を進める順序

先に結論を示します。Astra for Law は、GPT-6 Astra に米国法の検索インデックスと法務向けの指示・設定を加えた構成です。2026 年 9 月 18 日時点では選定された法律事務所への Trusted Access による提供に限られ、API は近日提供の段階です。一般企業の法務部門や日本からの申請が対象に含まれるか、料金、日本法への対応は公式情報からは確認できないため、検討する場合は機能評価より先に利用資格の確認から進めることをおすすめします。

Astra for Law とは|通常の GPT-6 Astra との違い

Astra for Law の違いは、モデルそのものより「何を検索し、どう指示され、誰に提供されるか」にあります。OpenAI は、GPT-6 Astra に法務業務向けの設定、ツール、コンテキストを組み合わせたものと説明しています。

GPT-6 Astra に追加された要素

OpenAI の発表では、Astra for Law は次の要素で構成されています。法律専門メディアの LawSites は、OpenAI 側が説明会で「新しいモデルではなく、モデルの構成(configuration)である」と説明したと報じています。

基盤モデル

通常版と同じ GPT-6 Astra です。OpenAI は、今後のフロンティアモデルにも法務向けの能力を展開するとしています。

法務向け検索インデックス

米国の判例、制定法、規則、裁判所規則、行政決定を対象とした検索ツールです。対象範囲は後述します。

法務分析・文書作成の指示

調査結果を依頼者の事実関係へ当てはめ、主張や取引条件を組み立て、弱点や不確実性を示すための指示です。

設定

法務業務向けに調整された設定です。公式発表に具体的な項目の記載はなく、LawSites は回答の長さなどが含まれると報じています。

通常版との比較

通常版の仕様、料金、プラン別の提供範囲は、関連記事『GPT-6 Astra の料金と提供範囲|GPT-5.6 との使い分け』で整理しています。ここでは法務向けで変わる点に絞って比較します。

項目GPT-6 Astra(通常版)Astra for Law
表示名・モデル IDGPT-6 Astra(通常の Chat では GPT-6 Pro)、gpt-6-astraGPT-6 Astra Law、gpt-6-astra-law
提供対象ChatGPT の有償プラン、Codex、API(経路ごとに条件が異なる)選定された法律事務所(Trusted Access)
API提供中近日提供(公開日は未公表)
追加ツール標準の Web 検索、ファイル検索など米国法を対象とした法務向け検索インデックス
データ条件Enterprise・API の標準条件対象事務所に API の ZDR、ChatGPT Enterprise の人によるレビュー除外
料金公開済み未公表

Astra for Law の提供条件|ChatGPT・Codex・API の現状

提供条件は製品面ごとに状況が異なります。以下は 2026 年 9 月 18 日に公式ページで確認した範囲です。

製品面ごとの提供状況

製品面提供状況補足
ChatGPT提供済み(選定された法律事務所のみ)Trusted Access による提供。モデルピッカーの表示名は GPT-6 Astra Law
Codex提供済み(選定された法律事務所のみ)ChatGPT と同じ Trusted Access の枠組み
API近日提供予定モデル ID は gpt-6-astra-law。Harvey、Legora が構築予定の API 顧客として挙げられている。公開日と料金は未公表

参考: Introducing Astra for Law(OpenAI)
“initially offered to selected law firms through Trusted Access in ChatGPT and Codex”
(当初は、ChatGPT と Codex において Trusted Access を通じ、選定された法律事務所に提供される)
https://openai.com/index/astra-for-law/

API については、同日時点で OpenAI の API ドキュメントに gpt-6-astra-law の記載を確認できませんでした。料金、レート制限、対応エンドポイントは、公開後に改めて確認が必要です。

一般企業の法務部門や日本からの利用は対象か

OpenAI は Trusted Access Program を、対象となる法律事務所の弁護士と、その監督下で働く人が職業上の法務業務に利用するためのものと説明しています。(出典: OpenAI for law firms)一般企業の法務部門(インハウス)を対象に含むかどうかは、公式情報に記載がありません。

法務向けの営業窓口は「法律事務所または法務チーム」からの問い合わせを受け付けるフォームですが、これは問い合わせの窓口であり、Trusted Access の対象資格を示すものではありません。対象地域、日本からの申請可否、選定基準も公表されていません。なお LawSites は、Trusted Access が米国の大手法律事務所ランキングの上位 200 事務所(Am Law 200)を対象にしていると報じていますが、OpenAI の公式ページでは確認できない第三者の報道です。

確認時点で、日本企業の法務部門が Astra for Law を直接利用できると判断できる公式情報はありません。料金も未公表のため、通常版の API 単価やプランの利用枠を当てはめて見積もることは避けることをおすすめします。

法務向け検索と評価結果の読み方

OpenAI が公表した評価は、法務向け検索、指示、設定を含む構成全体を対象としたもので、検索インデックス単独の寄与を切り分けた結果ではありません。検索の対象範囲と、評価の条件を分けて読む必要があります。

検索対象は米国法で日本法の記載はない

法務向け検索インデックスは、米国の判例、制定法、規則、裁判所規則、行政決定を対象とし、2 億 3,000 万を超える URL を収録して日々追加していると説明されています。判例については、非営利団体 Free Law Project が運営する CourtListener と協業し、公刊された米国の先例判例の 99.9% 超をカバーするコレクションを取り込んでいます。Thomson Reuters などが提供するライセンス済みの専門コンテンツを置き換えるものではなく、補完する位置づけです。(出典: Introducing Astra for Law

公式情報には、日本法や米国以外の法域を対象とする記載はありません。日本語で質問できることと、日本の法令・判例に基づいて調査できることは別の問題です。日本法の業務で検討する場合は、まず日本法への対応と、必要な法令・判例の情報源を扱えるかを OpenAI や提供元に確認する必要があります。確認できない段階では、日本法の業務での有効性や、通常版と同等に使えることを前提にしないことをおすすめします。

OpenAI が公表した評価の条件

OpenAI は、Vals AI の Legal Research Bench の非公開検証セットから抽出した米国法の調査問題 200 問で、Astra for Law の構成全体を評価した結果を公表しています。比較対象は、Web 検索のみを使う GPT-6 Astra です。(出典: Introducing Astra for Law

指標Astra for LawGPT-6 Astra(Web 検索のみ)比較条件
総合的な正答チェックの通過率54.0%38.7%両者とも最高の推論設定
判例中心の質問で見つけた参照判例の数24% 多い基準両者とも最高の推論設定
正しい判決文から取得した関連箇所最大 54% 多い基準監査済みの対象箇所で、同じ推論設定どうしを比較

正答チェックの通過率の差は 15.3 ポイントで、OpenAI はこれを 40% の相対改善と説明しています。この 40% は正答率そのものや法務業務全体の改善率ではなく、米国法の調査問題における相対値です。比較対象は Web 検索のみの構成であり、法律事務所が契約している専門データベースを組み合わせた構成との比較ではありません。いずれも OpenAI が公表した評価で、第三者による再現結果ではありません。

発表ページには他社モデルとの出力例の比較も掲載されていますが、OpenAI が選んだ訴訟・取引の各 1 件の事例であり、上記の評価結果とは別の位置づけです。

データ管理|ZDR と人によるレビューを分けて確認

法務部門から最も質問を受けやすいのがデータの扱いです。法務向けに追加された条件と、ChatGPT Enterprise や API の一般的な仕様を分けて確認します。

法務向けに追加された 2 つの条件

OpenAI は、対象となる法律事務所向けに 2 つの条件を示しています。1 つは API 利用における Zero Data Retention(ZDR)、もう 1 つは ChatGPT Enterprise の利用が既定で人によるレビューの対象外となる扱いです。

参考: OpenAI for law firms(OpenAI)
“API usage under our legal offering comes with zero data retention.”
(法務向け提供における API の利用には、Zero Data Retention が適用される)
https://openai.com/solutions/industries/law/

ZDR は API に対する条件で、ChatGPT Enterprise に示されているのは人によるレビューの除外です。ChatGPT 上の会話が保存されないという意味ではありません。

ZDR の範囲にも注意が必要です。API の一般的な仕様では、ZDR は不正利用監視のログから顧客コンテンツを除外し、Responses API などの store パラメーターを常に false として扱います。一方で、ZDR の対象外となるエンドポイントや機能ではアプリケーションの状態が保存される場合があり、画像・ファイル入力にも保存の例外が定められています。法務向け提供で ZDR がどの範囲に適用され、どのような例外があるかは、契約書面で確認することをおすすめします。

学習・保存期間・閲覧・権限は別々に確認する

「学習に使われない」「保存されない」「OpenAI の担当者に見られない」「社内で閲覧できる人を制限できる」は、それぞれ別の条件です。一般的な仕様と法務向けに示された条件を分けると、次のとおりです。

観点OpenAI の一般的な仕様(対象サービスを明記)法務向け提供で示された条件
学習への利用Enterprise・API: 既定で学習に使われない(明示的にオプトインした場合を除く)追加の記載なし
保存期間Enterprise: 管理者が保持期間を設定。削除した会話は、法令上保持が必要な場合を除き 30 日以内に削除
API: 不正利用監視ログは原則最大 30 日。アプリケーションの状態やファイルなどは機能ごとに保持条件が異なり、削除まで保持されるものもある
API に ZDR(対象事務所)
OpenAI 側の人による閲覧Enterprise: 従業員の閲覧はインシデント対応、明示的な許可を得た会話の復旧、法令上の要請に限定。自動の分類器による処理は行われるChatGPT Enterprise は既定で人によるレビューの対象外
組織内のアクセス権Enterprise: SAML SSO、機能単位の権限設定、Compliance API による監査ログ情報の権限や倫理的障壁などを設計中(後述)

出典: Enterprise privacy at OpenAI(Enterprise)、Data controls in the OpenAI platform(API)

連携先サービスと倫理的障壁の扱い

発表と同時に、26 のパートナー製プラグインと、弁護士やリーガルエンジニアが作成した 9 つのコミュニティプラグイン(47 のスキル)が公開されました。iManage では ChatGPT で作成した文書を案件ファイルへ保存する、Intapp では時間記録が必要な作業の候補を示すなど、読み取りだけでなく連携先への書き込みを伴う例も含まれています。

案件間の情報隔離や監査については、提供状況の異なる内容が発表に混在しているため、次のように分けて読む必要があります。

提供済みとして説明されている機能

管理者が有効にするプラグインと、利用できるユーザーやグループを制御できます。ChatGPT は連携先の既存の権限を尊重し、利用者ごとに連携先への認証が必要です。プラグインの利用状況は Compliance API の監査ログで追跡できると説明されています。(出典: PluginsEnterprise privacy at OpenAI

設計・協業中の内容

情報の権限、倫理的障壁(ethical walls)、依頼者の指示、事務所による監督について、OpenAI は Latham & Watkins と設計を進めているとしています。提供済みの機能としては説明されていません。

連携先の説明と導入側の確認事項

iManage は、既存の権限、倫理的障壁、監査証跡の下で動作すると述べていますが、提供元の説明です。連携先の保存、ログ、権限が OpenAI 側と同じ条件になるとは限らないため、連携先ごとに確認が必要です。

参考: Data controls in the OpenAI platform(OpenAI API ドキュメント)
“data sent to an MCP server is subject to their data retention policies.”
(MCP サーバーへ送信されたデータは、そのサーバーのデータ保持ポリシーに従う)
https://developers.openai.com/api/docs/guides/your-data

情シスと法務で使う Astra for Law 導入前の確認表

ここまでの内容を、情シスと法務が同じ表で確認できるように整理しました。この表は編集上の確認表であり、OpenAI が公開した導入手順や、実機で検証した仕様ではありません。

確認項目公式に確認できる範囲自社・提供元に確認すること
利用組織・利用者が提供対象に含まれるか選定された法律事務所の弁護士と監督下の人が対象。一般企業の法務部門、地域、選定基準は記載なし自社が申請対象になるか、弁護士資格のない法務担当者を利用者に含められるか
対象業務の法域と、必要な情報源を扱えるか法務向け検索は米国法が対象。日本法の記載なし対象業務の法域、必要な法令・判例データベース、契約中の専門サービスとの併用可否
入力文書、会話履歴、連携先データがどこに保存されるかAPI は ZDR(対象事務所)。Enterprise は管理者が保持期間を設定。連携先へ送ったデータは連携先のポリシーに従うZDR の適用範囲と例外、会話履歴の保持期間、保存リージョン、連携先ごとの保存場所
案件ごとの閲覧制限と、連携先の権限がどう扱われるか連携先の既存の権限を尊重。倫理的障壁などは設計中案件単位の隔離を OpenAI 側、連携先、運用のどこで実現するか。異動・退職時の権限整理
文書の読み取りに加え、保存・更新などの操作を許可するか連携先へ保存する例あり。プラグインの有効化は管理者が制御読み取り専用に限定するか、書き込みを許可する範囲と承認手順
操作履歴を確認できるかCompliance API で会話とプラグイン利用の監査ログを取得可能必要なログ項目と保存期間、SIEM などへの取り込み可否、連携先側のログ
出典と成果物を誰が確認・承認するか弁護士が出典を自ら検証できることを前提とした説明出典確認の担当者、承認フロー、社外へ提出する前のレビュー手順
料金と必要な契約を確認できるか料金、前提となる契約とも未公表料金体系、前提となる ChatGPT Enterprise などの契約、DPA などの付随契約

確認を進める順序

確認表の 8 項目は、次の順で進めると手戻りを抑えやすくなります。手順 1〜3 は文書を投入する前の確認で、実際の業務で試すのは手順 4 です。前の段階で対象外と判断できれば、後の確認は不要になります。

手順
利用資格を確認する

最初に、自社が提供対象に含まれるかを OpenAI の営業窓口へ確認します。対象外であれば、Astra for Law 固有の検索やデータ条件を前提にした検討は止め、通常版の GPT-6 Astra や、Astra for Law を組み込んだリーガルテック製品の提供条件を確認する段階に移ります。通常版の提供範囲と料金は『GPT-6 Astra の料金と提供範囲|GPT-5.6 との使い分け』を参照してください。リーガルテック製品が日本企業の法務部門や日本法に対応するかは、各提供元への確認が必要です。

手順
業務要件と法域を確認する

文書を投入する前に、対象業務の法域と、必要な法令・判例などの情報源を洗い出します。米国法の調査が中心であれば、法務向け検索インデックスの対象範囲と照らし合わせます。日本法の業務が中心であれば、日本法への対応と必要な情報源を扱えるかを OpenAI や提供元に確認します。確認できない段階では、日本法での有効性や通常版との同等性を前提にしないことをおすすめします。

手順
データ連携条件を確認する

利用資格と必要な情報源へのアクセスを確認できた段階で、ZDR の適用範囲、会話履歴の保持期間、連携先の権限と書き込み範囲、監査ログを確認します。あわせて、法務と情シスで許可する操作の範囲を合意しておくことをおすすめします。

手順
対象業務で出典と成果物を評価する

手順 1〜3 を確認できた場合に、対象業務に即して試用します。出典が実在し内容を正しく示しているか、成果物が社内の基準を満たすかを、法務の担当者が確認します。機密文書の投入は、手順 3 のデータ条件を確認した後に限ることをおすすめします。

まとめ

Astra for Law は、GPT-6 Astra に米国法の検索インデックスと法務向けの指示・設定を加えた、法律事務所向けの提供形態です。確認時点では選定された法律事務所に限られ、一般企業の法務部門や日本法への対応は公式に確認できません。検討する場合は、機能評価より先に利用資格とデータ条件を確認することが出発点になります。

  • 基盤モデルは通常版と同じ GPT-6 Astra
  • 法務向け検索インデックスの対象は米国の判例や法令
  • ChatGPT と Codex では選定された法律事務所に限定して提供
  • API の gpt-6-astra-law は近日提供予定で料金は未公表
  • API の ZDR と Enterprise の人によるレビュー除外は別の条件
  • 評価結果は OpenAI が公表した米国法の調査問題での数値
  • 一般企業の法務部門が対象に含まれるかは OpenAI への確認が必要です。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

関西を拠点に活動する、現役インフラエンジニア。経験20年超。

大手通信キャリアにて、中〜大規模インフラ(ネットワーク・サーバ・クラウド・セキュリティ)の設計・構築およびプロジェクトマネジメントに従事。現場で直面した技術課題への対処や、最新の脆弱性情報への実務対応を、一次情報として発信しています。

保有資格
CCIE Lifetime Emeritus(取得から20年以上)/ VCAP-DCA / Azure Solutions Architect Expert

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