はじめに
NEC UNIVERGE IX シリーズは国内の拠点ルーターとして広く使われていますが、リンクアグリゲーションに関する技術情報は他メーカーと比べて多くありません。そして、IX のリンクアグリゲーションには「静的設定のみ対応(LACP 非対応)」「回線の増速はできない(冗長化専用)」という、他メーカーの感覚のまま設計すると確実につまずく 2 つの大きな制約があります。
この記事では、公式 FAQ と公式機能説明書に基づき、NEC IX のリンクアグリゲーションの対応状況、制約事項、設計上の注意点を整理します。
- IX シリーズのリンクアグリゲーション対応状況(静的のみ・対応バージョン・機種の考え方)
- 「回線の増速はできない」という最重要制約の理由と設計への影響
- ミラーポート併用不可・ポート VLAN 条件などその他の制約事項
- 設定の流れと公式資料の参照先
- 対向機器(Cisco・FortiGate・YAMAHA)側の設定の合わせ方
結論を先に述べると、IX のリンクアグリゲーションは冗長化専用の機能と捉えるのが正確です。LACP は使えないため対向機器は静的モードに統一し、帯域拡張が必要な場合はリンクアグリゲーションではなく上位速度のポートを持つ機種の選定で対応する、というのが設計の基本方針になります。新系列の IX-R シリーズも同様の仕様で、仮想ルーターの IX-V はリンクアグリゲーション非対応です。
なお、静的 LAG と LACP の違いなど、リンクアグリゲーションの仕組みそのものは関連記事『リンクアグリゲーションの仕組みと方式の違い』で解説しています。
NEC IX のリンクアグリゲーション対応状況
静的設定のみ対応(LACP 非対応)
IX シリーズのリンクアグリゲーションは、公式 FAQ で次のとおり明記されています。
参考: LAN(イーサネット): FAQ: UNIVERGE IX シリーズ(NEC 公式)
「静的設定のみ対応しています。LACP等の動的設定には対応しておりません」
https://jpn.nec.com/univerge/ix/faq/ethernet.html
LACP に対応していないため、対向機器側で LACP(アクティブ / パッシブ)を設定しても LAG は成立しません。対向が Cisco であれば on モード、FortiGate であれば lacp-mode static というように、静的モードへの統一が必須です。組み合わせの詳細は本記事の後半と、関連記事『リンクアグリゲーションのメーカー相互接続』で解説します。
また、静的 LAG はネゴシエーションによる保護(設定不整合の検証、リンクダウンを伴わない障害の検出)を持たないため、結線前に両端の設定を完了させる運用と、障害検出の限界を織り込んだ監視設計が前提になります。
対応バージョンと対応機種の考え方
公式 FAQ によると、リンクアグリゲーション機能はソフトウェアバージョン 8.8 以降でサポートされています。対応機種については「2017 年 5 月現在販売中の IX シリーズは、スイッチングハブを搭載していない機種を除く全機種、リンクアグリゲーション機能に対応」と記載されています。つまり、判断の軸は「スイッチングハブ(複数の LAN ポートを束ねる SW-HUB 部)を搭載しているかどうか」です。なお、この FAQ の記載は 2017 年 5 月時点のものであるため、導入予定の機種については個別の機能説明書・仕様での確認を推奨します。
新旧の製品系列ごとの対応状況は次のとおりです。
| 系列 | リンクアグリゲーション | 備考 |
|---|---|---|
| IX2000 / IX3000 シリーズ(従来系列) | ○(Ver.8.8 以降、SW-HUB 搭載機種) | 静的のみ |
| IX-R シリーズ(新系列) | ○ | 静的のみ。動作仕様は従来系列と同様(公式機能説明書で確認) |
| IX-V シリーズ(仮想ルーター) | × | 公式コマンドリファレンスに「本コマンドは IX-R シリーズでのみ利用できます」と明記 |
IX-R シリーズの機能説明書でも、送信ポートの決定方式(MAC アドレスベース)や増速不可の制約が従来の FAQ と同内容で記載されており、新系列でも「静的のみ・冗長化専用」という位置づけは変わっていません。
同じ「静的専用」のルーターでも、YAMAHA RTX は出力ポートが分散すれば論理リンク全体の帯域が増加すると公式に記載されており、IX とは位置づけが異なります。この違いは次章で詳しく扱います。RTX 側の仕様は関連記事『YAMAHA リンクアグリゲーションの設定手順』を参照してください。
最重要の制約: 回線の増速はできない(冗長化専用)
IX のリンクアグリゲーションを設計に組み込む前に、必ず理解しておくべき最重要の制約がこれです。公式機能説明書(IX-R / IX-V シリーズ)には次のとおり明記されています。
参考: 物理、リンクレイヤの設定(IX-R/IX-V 機能説明書、NEC 公式)
「リンクアグリゲーション機能を使用して回線の増速(たとえば1Gポートを2ポート使用して2Gbpsの通信を行う)はできません」
https://support.necplatforms.co.jp/ix-nrv/manual/fd/02_router/04_layer1-2.html
従来の IX2000 / 3000 系の公式 FAQ にも同内容の記載があり、新旧いずれの系列でも共通の制約です。
「束ねれば速くなる」が通用しない理由
リンクアグリゲーション全般において、単一フローの通信が 1 リンク分の帯域を超えられないことは、関連記事『リンクアグリゲーションの仕組みと方式の違い』で解説したとおりです。しかし IX の場合はそれ以前の話として、メーカー自身が「増速はできない」と機能仕様として明言している点が重要です。「多数のフローが流れれば合計帯域は増えるはず」という一般論を IX に当てはめて帯域設計をすることは、公式仕様に反する期待になります。
この背景として、公式機能説明書には、送信ポートの決定方式が記載されています。IX は同一 LAG 内のアップしているポートの中から、送信先 MAC アドレスと送信元 MAC アドレスを元に送信ポートを決定します。ルーターの配下でこの分散キーを考えると、たとえば IX と対向スイッチの間の通信では、フレームの MAC アドレスの組み合わせが偏りやすく、分散が効きにくい構成が容易に発生します。「増速を保証しない」という公式の位置づけは、この動作特性とも整合的です。
設計上の帰結は明確です。
- 帯域が足りない場合の解決策は、リンクアグリゲーションの本数追加ではなく、上位速度のポート(10G 等)を持つ機種の選定になります。
- IX のリンクアグリゲーションを採用する目的は、LAN 側接続の冗長化に限定します。
冗長化の動作(MAC アドレスベースの送信ポート決定)
冗長化機能としての動作は、公式機能説明書に次のとおり記載されています。LAG 内のポートがダウンした場合、MAC アドレスを元に、残りのアップしているポートの中から送信ポートが再決定されます。つまり、ケーブル断や対向ポート故障などリンクダウンを伴う障害であれば、残存ポートで通信を継続できます。
一方で、IX は静的 LAG のみのため、LACP のようなプロトコルレベルの死活監視はありません。リンクダウンを伴わない障害(経路途中の機器での破棄等)は検出できない点は、静的 LAG 共通の限界として設計に織り込む必要があります。IX と対向機器は中継機器を挟まず直接接続する構成を基本とし、必要に応じて上位レイヤーの監視(ping 監視等)で補完することを推奨します。
その他の制約事項と設計上の注意点
増速不可以外にも、公式に明記された制約が複数あります。いずれも設計段階で確認しておくべき項目です。
ミラーポート・モニタポートとの併用不可
公式コマンドリファレンスには、次の制約が記載されています。
参考: Ethernet(IX-R/IX-V コマンドリファレンス、NEC 公式)
「LAGポートをミラーポート、モニタポートとして併用することはできません」
https://support.necplatforms.co.jp/ix-nrv/manual/crm/cli/interface/cli_ethernet.html
実務への影響は、パケットキャプチャの設計に表れます。LAG を構成しているポートは、ポートミラーリングの対象(モニタポート)にも出力先(ミラーポート)にもできないため、LAG 区間のトラフィックを IX 側でミラーリングして解析する、という切り分け手段が使えません。障害調査でキャプチャが必要になった場合は、対向機器側でのミラーリングや、経路上の別ポイントでの取得を代替手段として想定しておきます。
ポート VLAN との併用条件
ポート VLAN と併用する場合、同一 LAG に指定するポートは、すべて同一のポート VLAN グループに指定する必要があります。LAG メンバーの一部だけが別の VLAN グループに属する構成は組めません。
あわせて、公式機能説明書・コマンドリファレンスには次の制約も記載されています。
- 1 つの LAG に複数の物理ポートを指定できるが、1 つの物理ポートを複数の LAG に所属させることはできない
- 異なる VLAN グループに同一の LAG を設定することはできない
いずれも「LAG とポート・VLAN の対応は 1 対 1 で揃える」という原則に集約されます。Cisco や FortiGate のようにトランク上で複数 VLAN を柔軟に扱う感覚で設計すると、IX 側の制約に突き当たるため、VLAN 設計と LAG 設計はセットで確定させてから設定に入ることを推奨します。
リンクアグリゲーションの設定
設定の流れ(公式資料の参照先を含む)
はじめにお断りしておくと、IX のリンクアグリゲーション設定コマンドの正確な構文は、本記事の執筆時点で、Web 上で参照可能な公式資料の範囲からは確認できませんでした。公式コマンドリファレンス(IX-R / IX-V)に「LAG-PORT で指定したポートを、指定した LAG 番号のリンクアグリゲーションに設定する」コマンドが device コンフィグモード配下に存在することまでは確認済みですが、構文の細部を推測で記載することは避け、確認できている情報の範囲で設定の流れを整理します。
設定の流れ(公式資料の記述に基づく整理)
ポート VLAN を併用する場合、LAG に指定する全ポートを同一ポート VLAN グループに揃える必要があります(前章で解説した制約)。LAG の設定前に vlan-group の設計を固めておきます。
IX の LAG は、SW-HUB を構成する device(例: IX2215 であれば GigaEthernet2)の設定として、対象ポートを LAG 番号に割り当てる形式です。1 つの物理ポートを複数の LAG に所属させることはできません。
静的 LAG 共通の鉄則です。
正確なコマンド構文と設定例は、以下の公式資料をご参照ください。
- IX-R シリーズ: 「IX-R/IX-V 機能説明書」2.3 節(物理、リンクレイヤの設定)および「IX-R/IX-V コマンドリファレンス」の Ethernet コマンド、「設定事例集」(いずれも NEC プラットフォームズのサポートサイトでオンライン公開)
- IX2000 / 3000 シリーズ: 各機種・各バージョンの機能説明書・コマンドリファレンス・設定事例集(NEC の UNIVERGE IX サポートページからダウンロード提供)
状態確認についても、LAG 専用の show コマンドの構文は公式 Web 上から確認できませんでした。show running-config での設定確認、show interfaces 系コマンドでの物理ポート状態確認、および対向機器側(Cisco の show etherchannel summary 等)での論理リンク認識の確認を組み合わせることを推奨します。
なお、お手元に IX の実機やマニュアル PDF がある場合は、そちらの記載が常に優先です。本記事は確認でき次第、構文を追記して更新します。
対向機器側の設定の合わせ方(Cisco・FortiGate・YAMAHA)
IX は静的 LAG のみ対応のため、対向機器側も静的モードに統一します。主要な対向機器での設定の対応は次のとおりです。
| 対向機器 | 静的モードの設定 | 注意点 |
|---|---|---|
| Cisco Catalyst | channel-group <番号> mode on | active / passive(LACP)や desirable / auto(PAgP)とは成立しない。EtherChannel ミスコンフィグガードの有効化を推奨 |
| FortiGate | aggregate インターフェースに set lacp-mode static | 既定値は active のため、明示的な変更が必要 |
| YAMAHA SWX | static-channel-group <番号> | LACP 用の channel-group と間違えない。論理インターフェース(sa)の no shutdown を忘れない |
| YAMAHA RTX | lan link-aggregation static <番号> <ポート>... | RTX も静的専用のため方式は自然に一致する |
いずれの組み合わせでも、次の 3 点が共通の運用ルールになります。
- 結線は両端の設定完了後に行う(片側だけ設定済みの状態での結線はループの典型パターン)
- 静的 LAG はリンクダウンを伴わない障害を検出できないため、IX と対向機器は中継機器を挟まず直接接続し、必要に応じて上位レイヤーの監視で補完する
- 対向が Cisco の場合は、EtherChannel ミスコンフィグガードを有効化して不整合を err-disabled で止める保険をかける
各機器側の設定手順の詳細は、関連記事『Cisco EtherChannel の設定手順』『FortiGate リンクアグリゲーションの設定手順』『YAMAHA リンクアグリゲーションの設定手順』を、切り分け手順を含む相互接続の全体像は関連記事『リンクアグリゲーションのメーカー相互接続』をご参照ください。
まとめ
NEC IX のリンクアグリゲーションは、静的設定のみ対応(LACP 非対応)かつ回線の増速不可という、公式に明記された 2 つの大きな制約を持つ「冗長化専用」の機能です。この位置づけを正しく理解し、帯域要件は機種選定で、冗長化要件はリンクアグリゲーションで満たすという役割分担で設計することが、IX を採用する構成の基本方針になります。
- IX のリンクアグリゲーションは静的設定のみ対応で LACP は使用できない
- 対応は Ver.8.8 以降のスイッチングハブ搭載機種、IX-R も同仕様で IX-V は非対応
- 回線の増速はできないと公式明記されており冗長化専用と捉える
- 帯域が必要な場合は本数追加ではなく上位速度ポートを持つ機種選定で対応する
- LAG ポートはミラーポート・モニタポートと併用できない
- ポート VLAN 併用時は同一 LAG の全ポートを同一グループに揃える
- 対向機器は静的モードに統一し結線は両端の設定完了後に行う
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。


