はじめに
2026 年 7 月 9 日(米国時間)、OpenAI が GPT-5.6 ファミリーの一般提供を開始しました。今回のリリースは単一モデルの更新ではなく、フラッグシップの Sol、バランス型の Terra、低コスト型の Luna という 3 つのモデルティアで構成されています。さらに 7 月 30 日には Luna と Terra の料金改定が実施され、一般提供から約 3 週間でコストの前提が変わりました。
モデルの選択肢が増えたうえに料金も動いたため、「自分の業務ではどれを使えばよいのか」「Claude など他モデルとの位置関係はどうなのか」が判断しづらくなっています。
この記事では、GPT-5.6 の 3 モデルの違いと値下げ後の最新料金を整理したうえで、インフラエンジニアの業務目線でのモデルの使い分けを解説します。
- GPT-5.6 の Sol・Terra・Luna の位置づけと、2026 年 7 月 30 日改定後の料金
- Luna 80% 減・Terra 20% 減という値下げの内容と、コスト設計への影響
- max・ultra モードとプロンプトキャッシュ、API に追加された Fast mode の仕様
- ベンチマークから読み取れる Claude Opus 5 / Sonnet 5 / Fable 5 との位置関係
- 構成図作成・IaC・ログ分析など、インフラ業務タスク別のモデル選択の考え方
結論を先に述べると、今回の値下げで最も影響が大きいのは Luna です。入力単価が 5 分の 1 になったことで、これまで Terra を既定にしていた定型処理は Luna への置き換えを検証する価値が生まれました。一方で Sol の価格は据え置きであり、上位ティアのコスト構造は変わっていません。また、単価が下がってもツール呼び出しの往復回数やプロンプト設計によって実効コストは変動するため、単価表だけで乗り換えを判断できない点は従来どおりです。
GPT-5.6 とは|Sol・Terra・Luna の 3 ティア構成
GPT-5.6 は、2026 年 6 月 26 日から一部の信頼パートナー向けに限定プレビューされていたモデルファミリーで、7 月 9 日に一般提供へ移行しました。ChatGPT・Codex・OpenAI API で利用できます。まず 3 モデルの位置づけと、今回から導入された命名体系を整理します。
3 モデルの位置づけと最新の料金
以下は 2026 年 7 月 30 日の改定を反映した料金です。
| モデル | 位置づけ | 入力(100 万トークン) | 出力(100 万トークン) | 改定前からの変化 |
|---|---|---|---|---|
| GPT-5.6 Sol | フラッグシップ。コーディング・知識労働・サイバーセキュリティ・科学で最高性能 | $5 | $30 | 変更なし |
| GPT-5.6 Terra | バランス型。GPT-5.5 と同等の性能をより低コストで提供 | $2 | $12 | $2.50 / $15 から 20% 減 |
| GPT-5.6 Luna | 最速・最安。高頻度・大量処理向け | $0.20 | $1.20 | $1 / $6 から 80% 減 |
改定の詳細と、この価格差が実務のモデル選択にどう効いてくるかは、後述の「2026 年 7 月の料金改定とコスト設計への影響」で扱います。
もう 1 つ押さえておきたいのが、命名体系の変更です。「5.6」という数字が世代を示し、Sol・Terra・Luna は世代をまたいで継続する能力ティアの名称と定義されました。Anthropic の Opus / Sonnet / Haiku に近い体系と捉えると理解しやすい構成です。
参考: GPT-5.6: Frontier intelligence that scales with your ambition(OpenAI 公式)
“Sol, Terra, and Luna are durable capability tiers that can advance on their own cadence”
(Sol・Terra・Luna は、それぞれ独自のペースで進化しうる恒久的な能力ティアである)
https://openai.com/index/gpt-5-6/
参考として、Claude の現行ラインアップは Opus 5 が入力 $5 / 出力 $25、Sonnet 5 が $2 / $10(2026 年 8 月 31 日までの導入価格。9 月 1 日以降は $3 / $15)、Fable 5 が $10 / $50 です。単価だけを見ると Sol は Fable 5 の半額ですが、モデルごとに推論トークンの消費量が大きく異なるため、単価の比較だけでは実際のコストは判断できない点は押さえておく必要があります。(この点はベンチマークのセクションで改めて扱います)
なお、Opus 5 の性能と制限については、関連記事『Claude Opus 5 の性能と制限』で詳しく整理しています。

新機能: max・ultra の推論モード
GPT-5.6 では、推論の深さを制御する仕組みが拡張されました。従来の xhigh を超える推論設定として max が追加され、さらにその上位に位置する ultra が新設されています。ultra は既定で 4 つのエージェントを並列に協調させ、1 つのタスクに取り組むモードです。
トークン消費と引き換えに、複雑なタスクの成功率と完了までの時間を改善する設計で、ChatGPT Work では Pro・Enterprise プラン、Codex では Plus 以上のプランで利用できます。API 側では、モデル自身が軽量なプログラムを書いてツール呼び出しを協調させる Programmatic Tool Calling が Responses API に追加されており、こちらは提供範囲のセクションで改めて触れます。
推論設定を上げるとトークン消費が増えるため、値下げ後の単価であっても max・ultra の常用は請求額に直結します。値下げの恩恵を受けやすいのは、既定の推論設定で回す高頻度・定型のワークロードであり、この考え方は次のセクションで具体化します。
2026 年 7 月の料金改定とコスト設計への影響
一般提供から約 3 週間後の 2026 年 7 月 30 日、OpenAI が Luna と Terra の料金を引き下げました。改定は API 単価だけでなく、サブスクリプションのクレジット消費や AWS Bedrock 経由の利用にも波及しています。このセクションでは、改定の内容と、コスト設計で押さえておきたい原則を整理します。
改定の内容と背景
引き下げ幅は Luna が 80%、Terra が 20% で、Sol は据え置きです。
| モデル | 改定前(入力 / 出力) | 改定後(入力 / 出力) |
|---|---|---|
| Sol | $5 / $30 | $5 / $30 |
| Terra | $2.50 / $15 | $2 / $12 |
| Luna | $1 / $6 | $0.20 / $1.20 |
参考: Advancing the price-performance frontier with GPT-5.6(OpenAI 公式)
“Starting today, GPT-5.6 Luna, our fastest and most affordable model, will cost 80% less”
(本日より、最速かつ最も低価格なモデルである GPT-5.6 Luna は 80% 安くなる)
https://openai.com/index/advancing-the-price-performance-frontier-with-gpt-5-6/
上位ティアの価格構造は変わっていない点が重要です。 今回の改定で恩恵を受けるのは、Luna と Terra を大量に回すワークロードに限られます。
背景として OpenAI が挙げているのは、モデル・推論基盤・エージェントハーネスの各層での効率改善です。Sol 自身が本番環境の GPU カーネルを書き直し、トークン生成に関する実験を設計・実行した結果、モデル提供コストが 20% 削減され、トークン生成効率が 15% 超改善したと説明されています。この数値は OpenAI の自社公表値であり、第三者による検証ではありません。
API 以外への波及
改定は API 単価にとどまらず、次の 4 点に影響しています。
- サブスクリプションのクレジット消費
-
ChatGPT Work と Codex では、サブスク価格とクォータ枠は据え置きのまま、Terra と Luna の消費クレジットのみが減少します。同じ枠でより多くのタスクを実行できる形です
- AWS Bedrock
-
7 月 30 日付で同率の値下げが反映されました。ただし Luna と Terra の提供は US East(バージニア北部・オハイオ)と US West(オレゴン)に限られ、東京リージョンは対象外です
- Auto-review
-
ChatGPT アプリと Codex CLI の Auto-review が GPT-5.4 から Luna へ移行し、およそ 10 分の 1 のコストになる見込みとされています
- Fast mode
-
API の Priority Processing を置き換える形で導入されました。Sol で標準比 2.5 倍の速度を 2 倍の価格で提供し、知能面の変化はありません。
priorityタグ付きの既存リクエストは自動的に Fast mode を使用します
Bedrock のリージョン制約は、データ所在地の要件がある環境では検討の前提になります。国内リージョンでの提供を必要とする場合は、現時点では選択肢に入らない点に注意が必要です。
コスト設計で押さえておきたい 3 点
単価が下がっても、実際の請求額は単価表だけでは決まりません。設計上の論点を 3 つに整理します。
1 つ目は、単価と実効コストの乖離です。 実効コストは「単価 × 消費トークン量」で決まるため、下位ティアに切り替えても、ツール呼び出しの往復回数や再試行が増えれば削減効果は目減りします。上位モデル向けに最適化したプロンプトをそのまま流用した場合、期待した品質が得られず往復が増えるケースもあります。単価差がそのまま請求額の差になるとは限らないため、切り替えは自身のワークロードでの計測を前提にすることを推奨します。
2 つ目は、プロンプトキャッシュの書き込み課金です。 GPT-5.6 以降では、キャッシュの書き込みが非キャッシュ時の入力単価の 1.25 倍で課金されます。読み取り側は 90% 割引が継続します。あわせて、明示的なキャッシュブレークポイントの指定と、最低 30 分のキャッシュ保持がサポートされました。
GPT-5.5 までは書き込みが無償だったため、同じ感覚で見積もると乖離が生じます。安定部分(システムプロンプト、ツール定義)と可変部分(ユーザー入力、都度変わる参照文書)をブレークポイントで分離し、書き込みが毎回発生しない構成にすることでコスト増を抑えられます。逆に、実行間隔が 30 分を大きく超える夜間バッチのようなワークロードでは、毎回コールドスタートとなり書き込み分の割増だけが残る形になります。仕様の詳細は OpenAI の公式ドキュメント(https://developers.openai.com/api/docs/guides/prompt-caching)で確認できます。
3 つ目は、推論設定です。 max や ultra はトークン消費と引き換えに品質と速度を買う設定のため、常用すると値下げ後の単価であっても請求額は伸びます。定常処理は既定の推論設定で運用し、max・ultra は障害対応など時間価値の高い場面に限定する運用が現実的です。

ベンチマークで見る GPT-5.6 の実力と Claude との比較
このセクションでは、公開されたベンチマークから GPT-5.6 の位置づけを整理します。ポイントは、GPT-5.6 が「スコアの絶対値」よりも「トークンあたり・コストあたりの効率」を強く打ち出したリリースであること、そして 7 月 24 日の Claude Opus 5 登場により、比較すべき相手が変わったことです。
コーディング・知識労働での位置づけ
インフラエンジニアの業務に関わりの深い項目を抜粋します。Claude 側は、記事公開時点の Opus 4.8 に代えて現行の Opus 5 と Sonnet 5 を掲載しています。
| 評価項目 | Sol | Terra | Luna | Fable 5 | Opus 5 | Sonnet 5 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| AA Coding Agent Index v1.1 | 80 | 77.4 | 74.6 | 77.2 | 首位タイ | — |
| SWE-Bench Pro | 64.6% | 63.4% | 62.7% | 80% | 79.2% | 63.2% |
| Terminal-Bench 2.1 | 88.8% | 87.4% | 84.7% | 83.1% | 89% | — |
| Agents’ Last Exam | 52.7% | 50.4% | 50.3% | 40.5% | — | — |
| AA Intelligence Index v4.1 | 58.9 | 55 | 51.2 | 59.9 | 61 | — |
「—」は未計測または未報告を示します。この表からは、次の 3 点が読み取れます。
実コードベースの改修では Claude 側が優位を維持しています。 SWE-Bench Pro は Fable 5 が 80%、Opus 5 が 79.2% であるのに対し、Sol は 64.6% と 15 ポイント前後の開きがあります。Opus 5 が Fable 5 とほぼ同水準を出力単価の半額($25 対 $50)で達成したことにより、この領域で比較すべき相手は Fable 5 から Opus 5 に移りました。
ターミナル操作を伴うワークフローは拮抗しています。 Terminal-Bench 2.1 は Sol が 88.8%、Opus 5 が 89% でほぼ並んでいます。
長時間のエージェント的ワークフローは GPT-5.6 の強みが残ります。 55 分野の長時間プロフェッショナルワークフローを測る Agents’ Last Exam では、Luna ですら Fable 5 を上回るスコアが公表されています。OpenAI は今回の値下げにあわせて、この評価で Luna が Fable 5 を上回り、タスクあたりの推定コストは約 99% 低いと主張しています。ただしこれも自社公表値です。
参考: Claude Opus 5 evaluation(Artificial Analysis)
“Claude Opus 5 (max) scores 61 on the Artificial Analysis Intelligence Index”
(Claude Opus 5 の max 設定は、Artificial Analysis Intelligence Index で 61 を記録した)
https://artificialanalysis.ai/articles/opus-5
ベンチマーク数値を読むときの注意点
上記の数値を業務でのモデル選択に反映する前に、押さえておきたい注意点が 4 つあります。
1 つ目は、比較表の大半が各社の公表値である点です。 ベンダー公表のベンチマークは、自社モデルに有利な評価項目や設定が選ばれる傾向が一般にあり、これは OpenAI と Anthropic の双方に共通する構図です。第三者機関の測定と突き合わせて読むことを推奨します。なお、Artificial Analysis は Opus 5 のリリース前評価を Anthropic の支援のもとで実施したと明記しており、第三者測定であっても実施経緯の確認は必要です。
2 つ目は、推論設定が揃っていない点です。 Opus 5 の Intelligence Index 61 は max 設定での値であり、Terminal-Bench 2.1 の 89% も max 設定です。GPT-5.6 側も none から max まで 6 段階の推論設定を持ちます。同じ表に並んでいても、設定次第でスコアとコストは大きく変動するため、表の数値は順位の目安として扱うのが安全です。
3 つ目は、コストとレイテンシの数値がオフラインでのシミュレーション推定である点です。 OpenAI 自身が、実運用での結果は大きく変動しうると注記しています。
4 つ目は、「—」の扱いです。 未計測・未報告を意味するもので、劣っていることを示すものではありません。比較できる項目だけで判断する必要があります。
サイバーセキュリティ能力とセーフガードの強化
GPT-5.6 のリリースで、セキュリティエンジニアが最も注目すべきなのがこのテーマです。サイバー能力の大幅な向上と、それに対応するセーフガードの強化・アクセス階層化がセットで導入されており、その構図は 2026 年 6 月の Claude Fable 5 をめぐる一連の出来事と重なります。
サイバー能力の向上と Trusted Access による段階的開放
公表値では、脆弱なコードへの到達から任意コード実行までの進捗を測る ExploitBench で、Sol は 73.5% と GPT-5.5 の 47.9% から大幅に伸びています。実世界の脆弱性を動作するエクスプロイトに変換する ExploitGym でも、GPT-5.5 のピーク合格率 15.1% に対して、Sol は 2 時間制限で 24.9%、6 時間では 33.7% に達したとされています。
この能力向上に対して、OpenAI はセーフガードを大幅に強化しました。公表値では、GPT-5.6 Sol のサイバーセーフガードは潜在的に有害な活動を従来比でおよそ 10 倍多くブロックするとされています。仕組み面の特徴は次の 3 点です。
- 推論モニターの導入
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分類器のフラグだけで遮断を決めるのではなく、会話の文脈を読んで害の可能性を判定する推論ベースの監視レイヤーを追加。テスト時推論を使うため、分類器の再訓練なしに防御を迅速に更新できるとしています
- 誤検知時の逃げ道
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セーフガードが正当な利用に摩擦を生むことを OpenAI 自身が認めており、ChatGPT と Codex には下位モデルでプロンプトを再試行するオプションが用意されています
- Trusted Access for Cyber
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脆弱性トリアージ、マルウェア解析、検知エンジニアリングなどの高度な防御用途は、本人確認・組織審査を通過した利用者に限定して開放。個人メンバーには 2026 年 9 月 1 日までにハードウェアベースのパスキーによる Advanced Account Security の有効化が求められ、未対応の場合はデフォルトアクセスに戻ります。加えて、高リスクな主体・地域への提供制限も明言されています
この設計は、再開後の Fable 5 が採用した「分類器でブロックしつつ Claude Opus 4.8 へフォールバックする」方式や、サイバー用途を 4 分類して開示したアプローチと発想が近く、「一般提供では能力に蓋をし、検証済みユーザーにのみ段階的に開放する」というフロンティアモデル共通の運用パターンが定着しつつあることを示しています。Fable 5 側の分類基準とブロック時の挙動については、関連記事『Claude Fable 5 のサイバーセーフガード詳細と CJS フレームワーク』で整理しているので、両社のアプローチを比較する際の参考にしてください。
なお、Claude 側では Sonnet 5 がサイバーセキュリティ用途の能力を意図的に抑えた設計になっています。防御用途であっても、選ぶモデルによって回答の深さが変わる点は運用上の判断材料になります。
参考: Introducing Claude Sonnet 5(Anthropic 公式)
“it has a much lower ability to perform cybersecurity tasks than our current Opus models”
(現行の Opus 系モデルと比べ、サイバーセキュリティ関連タスクの遂行能力は大幅に低い)
https://www.anthropic.com/news/claude-sonnet-5
政府関与下でのリリースという共通点
GPT-5.6 のリリース経緯にも触れておきます。GPT-5.6 は 6 月 26 日のプレビュー開始時点では一般公開されず、米政府の要請により、政府に参加者リストが共有された少数の信頼パートナーへの限定提供から始まりました。OpenAI は当時、この段階的リリースは自社が望んだ方式ではないと表明しています。
7 月 8 日には、商務省のテストを経て政府が広範なリリースを容認したとする Axios の報道が出ましたが、ホワイトハウスは「承認」の事実を明確に否定しました。
参考: White House Denies Giving OpenAI ‘Green Light’ to Publicly Release Its Latest Model(Gizmodo)
“decisions on timing and scope of releases rest entirely with the companies”
(リリースの時期と範囲に関する決定は、完全に企業側にある)
https://gizmodo.com/white-house-denies-giving-openai-green-light-to-publicly-release-its-latest-model-2000782955
政府に事前許可の権限はないという建前と、実際にはプレビュー範囲の限定やテストへの協力が行われているという実態の間に、あいまいな領域が残っている状況です。
この構図は、1 か月前の Claude Fable 5 の事例と対になっています。Fable 5 は一般公開後に商務省の輸出規制ディレクティブで停止に追い込まれたのに対し、GPT-5.6 は公開前の段階的リリースという形で政府関与を織り込みました。事後の強制停止か、事前の限定公開かという違いはあれ、フロンティアモデルの提供可否に米政府の意向が事実上影響する状態は継続しており、特定モデルへの業務依存はリスク要因として織り込む必要があります。Fable 5 停止の経緯と教訓は、関連記事『Claude Fable 5 はなぜ使えない|米政府ディレクティブの経緯と復旧の行方』を参照してください。
インフラエンジニア目線の使い分け(独自視点)
ここからは、公表情報と筆者の利用経験をもとに、インフラエンジニアの業務タスク別にどのモデルを選ぶかを整理します。前提として、GPT-5.6 世代では「とりあえず最上位モデル」という選び方はコスト効率が悪く、タスクの複雑さと所要時間に応じてティアを切り替える運用が費用対効果の面で合理的です。7 月 30 日の値下げにより、この切り替えの損益分岐点が下位ティア寄りに移動しました。
業務タスク別のモデル選択マトリクス
筆者が想定する業務タスクと推奨モデルの対応を一覧にします。あくまで公表ベンチマークと価格から導いた出発点であり、実際の精度は自身のワークロードでの検証を推奨します。
| 業務タスク | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|
| システム構成図・イラスト・提案資料の作成 | Sol | デザイン判断と computer use の強化が公式に明言されており、レイアウト品質が要求される用途に合う |
| IaC・スクリプト作成(Terraform、Ansible、シェル) | Terra | 日常的なコーディングは Terra で十分な水準。Coding Agent Index で Fable 5 を上回る |
| 大規模コードベースの改修・レビュー | Claude Opus 5 との併用 | SWE-Bench Pro では Opus 5 が Sol に約 15 ポイント優位。併用検証の価値がある領域 |
| ログ分析・設定ファイルの一括変換などの定型処理 | Luna | 値下げにより入力単価が Terra の 10 分の 1。大量処理のコストを抑えられる |
| 文書要約・分類・一次トリアージ | Luna | 値下げ後に費用対効果が最も改善した領域。従来 Terra を充てていた処理の移行先 |
| 長時間の調査・複数手順にまたがる障害解析 | Sol(max・ultra) | 長時間エージェントワークフローが GPT-5.6 の強み。ultra は並列エージェントで時間短縮を狙える |
| 脆弱性情報の調査・PSIRT 確認などの防御業務 | Terra + 用途次第で Claude | 防御用途は各社とも許可範囲だが、高度な内容はセーフガードの影響を受けるため挙動確認が必要 |
値下げ前は「単発・定型は Luna、日常は Terra、長時間・高品質要求は Sol」という 3 段構えでしたが、Luna の適用範囲が広がったことで、この境界は見直す価値があります。 特に文書要約や分類のように、出力品質の要求が中程度で処理件数が多いタスクは、Terra から Luna への移行を検証する対象になります。
一方で、Sol の価格は据え置きです。上位ティアを使う判断基準は従来と変わっていません。

イラスト・システム構成図は ChatGPT が優位という所感
筆者は GPT-5.5 の時点から、ブログや提案資料に使うイラストやシステム構成図の生成は ChatGPT のほうが Claude より仕上がりが良いと感じてきました。構成要素の配置バランスや配色、文字の収まりといった「見た目の判断」を要する場面での差です。
GPT-5.6 では、この方向性が公式に強化ポイントとして明言されました。高レベルの指示だけから実用的なインターフェースを作れるようになったことに加え、生成したコードのレンダリング結果をモデル自身が確認して手直しする computer use の仕組みが入っています。
従来の生成 AI による作図は「コードは正しいが見た目が破綻している」という結果になりがちで、人間側での手直しが前提でした。出力を自分で見て直すループが入ったことは、この弱点への直接的な対策と言えます。プレゼンテーション生成でも、参照デッキのデザインシステムを推測して新しい内容に適用する能力の向上が示されており、構成図・ネットワーク図・報告資料といった「見た目が成果物の一部」であるドキュメント作成は、現時点では ChatGPT 側に分があるというのが筆者の見立てです。
一方で、図の中身の正確性(プロトコルの流れや冗長構成の表現が技術的に正しいか)は別問題であり、レビューを省略できる段階にはありません。この点は従来どおり人間の確認が必要です。
ChatGPT・API での利用方法とプラン別の提供範囲
最後に、どのプラン・経路でどのモデルが使えるかを整理します。
| 経路 | 提供範囲 |
|---|---|
| ChatGPT(チャット) | Plus・Pro・Business・Enterprise で Sol を利用可能(medium 以上の推論設定)Pro・Enterprise は最高品質の Sol Pro も選択可能 |
| ChatGPT Work・Codex | Free・Go は Terra。Plus・Pro・Business・Enterprise は Sol・Terra・Luna を選択でき、モデルごとに推論設定を指定可能 |
| max モード | ChatGPT Work・Codex で GPT-5.6 を利用できる全ユーザーが設定でオンにできる |
| ultra モード | ChatGPT Work では Pro・Enterprise、Codex では Plus 以上 |
| OpenAI API | Sol・Terra・Luna の 3 モデルを提供。モデル ID はgpt-5.6-sol、gpt-5.6-terra、gpt-5.6-luna |
| AWS Bedrock | Luna・Terra は US East(バージニア北部・オハイオ)と US West(オレゴン)で提供 |
サブスクリプション側では、7 月 30 日の改定によって Terra と Luna の消費クレジットが減少しました。サブスク価格とクォータ枠自体は変わっていないため、値下げの恩恵は「同じ枠でより多く実行できる」という形で現れます。 ドル建ての請求額が下がるのは API 利用の場合です。
API 側の追加要素
Responses API に Programmatic Tool Calling が追加されました。モデルが軽量なプログラムを書いて実行し、ツール呼び出しの協調や中間結果の絞り込みをプログラム側で処理する仕組みで、すべてのツール応答をモデルに往復させる必要がなくなります。大量のログやインベントリ情報をツール経由で処理するワークフローでは、トークン消費と往復回数の削減につながる可能性があります。
また、7 月 30 日に Fast mode が導入され、従来の Priority Processing を置き換えました。Sol で標準比 2.5 倍の速度を 2 倍の価格で提供し、知能面の変化はありません。priorityタグ付きの既存リクエストは自動的に Fast mode を使用するため、コード変更なしで移行されます。レイテンシ要件が明確なワークロードでは、速度に対して倍額を払う価値があるかを個別に判断する形になります。
なお、無料プランでも ChatGPT Work・Codex 経由で Terra が使える点は、個人での検証を始めるうえでの入口として押さえておく価値があります。
まとめ
GPT-5.6 は、単一の上位モデルに集約するのではなく、Sol・Terra・Luna という 3 つのティアと推論設定の組み合わせで「タスクに応じて能力とコストを選ぶ」ことを前提としたリリースです。一般提供から約 3 週間で実施された料金改定により、下位ティアの費用対効果はさらに改善しました。ベンチマークの絶対値では Claude 側と項目ごとに優劣が分かれるため、モデルの使い分けを見直す良い機会と言えます。
- GPT-5.6 は Sol・Terra・Luna の 3 ティア構成
- 2026 年 7 月 30 日に Luna が 80% 減、Terra が 20% 減、Sol は据え置き
- 単価と実効コストは一致せず、往復回数とプロンプト設計が影響する
- キャッシュ書き込みは非キャッシュ入力単価の 1.25 倍で課金
- 実コードベースの改修は Claude Opus 5 が優位を維持
- 値下げにより Terra から Luna へ移せる定型処理の範囲が拡大
- Bedrock 経由の Luna・Terra は米国 3 リージョンに限定
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
