DeepSeek V4 の移行と機密情報のリスク|公式情報で確認した現状

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目次

はじめに

DeepSeek V4 に関する情報が 2026 年 7 月に入って急増しました。「正式版がリリースされた」「旧 API エイリアスが廃止された」「時間帯によって API 料金が 2 倍になる」といった記事が、国内外のメディアで相次いで公開されています。

一方で、これらを公式ドキュメントと突き合わせると、確認できる内容とできない内容が混在しています。API を本番環境で使っている場合、この差は稼働そのものと請求額に直結します。また、中国発のモデルであることから、業務データを入力してよいかという判断も避けて通れません。

この記事でわかること
  • DeepSeek V4 のアップデート内容と、V4-Pro / V4-Flash の使い分け
  • 旧モデル名の廃止への移行手順と、影響範囲の棚卸し方法
  • 公式料金表で確認した現在の料金と、時間帯課金の実際の適用状況
  • 他社 AI との性能・価格のポジション
  • 機密情報を扱ってよいかを、利用経路ごとに判断する基準
  • インフラ運用での具体的な活用方法

先に結論を示します。旧モデル名の deepseek-chatdeepseek-reasonerの廃止は公式ドキュメントに明記された事実で、日本時間 2026 年 7 月 25 日 0:59 をもって利用できなくなっています。話題になっている時間帯別の課金は、2026 年 6 月 29 日に DeepSeek が API 利用者へ送ったメールが出所であり、本記事の確認時点(2026 年 7 月 27 日)では公式の料金表に反映されていません。そして機密情報を扱えるかどうかは、モデルそのものではなく、公式 API・第三者ホスティング・自社ホスティングのどの経路を選ぶかで結論が変わります。

DeepSeek V4 のアップデート要点

DeepSeek-V4 は 2026 年 4 月 24 日に公開されたモデルシリーズで、V4-Pro と V4-Flash の 2 モデルで構成されています。公式ドキュメント上の表記は現在も Preview のままです。ここでは、実務判断に必要な範囲で仕様を整理します。

V4-Pro と V4-Flash の位置づけ

2 モデルはいずれも MoE(Mixture-of-Experts)構成で、総パラメーター数とアクティブパラメーター数が異なります。アクティブパラメーター数は 1 トークンの推論で実際に使われる規模を示し、推論コストに直結する値です。

項目DeepSeek-V4-FlashDeepSeek-V4-Pro
総パラメーター数284B1.6T
アクティブパラメーター数13B49B
コンテキスト長1M1M
最大出力384K384K
同時実行数の上限2500500
モデル IDdeepseek-v4-flashdeepseek-v4-pro

同時実行数の上限に 5 倍の差がある点は、バッチ処理を設計する際に見落としやすい部分です。大量のリクエストを並列で流す用途では、料金だけでなくこの上限が実効スループットを決めます。

1M コンテキストを支えるアーキテクチャ

V4 系列の中心的な変更は、長コンテキストの処理効率です。CSA(Compressed Sparse Attention)と HCA(Heavily Compressed Attention)を組み合わせたハイブリッド構成を採用しています。

技術レポートおよびモデルカードでは、1M トークンのコンテキスト設定において、前世代の V3.2 と比較した削減幅が具体的な数値で示されています。

参考: DeepSeek-V4 Preview Release(DeepSeek API Docs)
“1M context is now the default across all official DeepSeek services.”
(1M コンテキストが、すべての公式 DeepSeek サービスで既定になりました)
https://api-docs.deepseek.com/news/news260424

モデルカードによると、1M トークン設定時の V4-Pro は、V3.2 に対して 1 トークンあたりの推論 FLOPs が 27%、KV キャッシュが 10% とされています。KV キャッシュの削減幅は、自社ホスティングを検討する場合の GPU メモリー要件に直接効いてくる値です。この点は後半の自社運用のセクションで改めて扱います。

このほか、層をまたぐ信号伝播の安定性を高める mHC(Manifold-Constrained Hyper-Connections)と、学習の収束を早める Muon オプティマイザーが採用されています。事前学習は 32T トークン超で行われ、事後学習は分野ごとの専門モデルを個別に育てた後、on-policy distillation で 1 つのモデルに統合する 2 段階の構成が取られています。

3 つの推論モードと出力形式

V4-Pro と V4-Flash は、いずれも 3 段階の推論モードを持ちます。API 側では非推論モードと推論モードの切り替えとして扱われますが、モデルカードではより細かく 3 つに分かれています。

モード特性想定用途
Non-think高速で直感的な応答定型的な処理、リスクの低い判断
Think High論理的な分析を行い、低速だが精度が高い複雑な問題解決、計画立案
Think Max推論能力を最大限まで引き出すモデルの推論限界を探る用途

Think Max は特別なシステムプロンプトを前提とし、コンテキストウィンドウを 384K トークン以上に設定することが推奨されています。推論モードを上げるほど生成トークン数が増えるため、精度と課金額のトレードオフを意識した設定が必要になります。

なお、Non-think モードでも出力は </think>に続く要約という形式を取り、Think 系のモードでは <think>から</think>までの思考過程が含まれます。既存のクライアントで表示が崩れる場合は、この出力形式の違いを疑うと切り分けが早くなります。

MIT ライセンスでのウェイト公開

V4 系列は、モデルウェイトが MIT ライセンスで公開されています。Hugging Face と ModelScope の双方から取得でき、以下の 4 つのチェックポイントが提供されています。

  • DeepSeek-V4-Flash-Base(284B / FP8 Mixed)
  • DeepSeek-V4-Flash(284B / FP4 + FP8 Mixed)
  • DeepSeek-V4-Pro-Base(1.6T / FP8 Mixed)
  • DeepSeek-V4-Pro(1.6T / FP4 + FP8 Mixed)

FP4 + FP8 Mixed は、MoE のエキスパートパラメーターを FP4、それ以外の大部分を FP8 で保持する構成です。

ウェイトが MIT ライセンスで公開されているという事実は、機密情報の取り扱いを判断するうえで決定的な意味を持ちます。同じ DeepSeek V4 でも、公式 API を呼ぶのか自社環境で動かすのかで、データの所在と適用される法令が変わるためです。この点は「機密情報を扱えるか」のセクションで詳しく整理します。

実装面での注意点も 1 つあります。この公開版には Jinja 形式のチャットテンプレートが同梱されておらず、代わりに encodingフォルダーの Python スクリプトでメッセージを文字列へ変換する方式が案内されています。自社ホスティングで既存の推論スタックへ組み込む場合、ここでつまずく可能性があります。

旧モデル名の廃止と移行の実務

旧モデル名の廃止は、V4 まわりの情報のなかで唯一、公式ドキュメントに日時レベルで明記されている変更です。ここでは廃止の正確なタイミングと、影響範囲を洗い出す手順、そして単純な置き換えでは対応しきれない設定差分を整理します。

廃止のタイミングと日本時間での換算

公式の Change Log と News ページには、deepseek-chatdeepseek-reasonerの 2 つのモデル名が 2026 年 7 月 24 日 15:59(UTC)以降アクセス不可になると記載されています。日本標準時に換算すると 2026 年 7 月 25 日 0:59 となり、本記事の執筆時点(2026 年 7 月 27 日)ではすでに経過しています。

廃止前は、deepseek-chatdeepseek-v4-flashの非推論モードへ、deepseek-reasonerが同じく推論モードへルーティングされていました。この転送が終了したため、旧モデル名を指定したリクエストはエラーになります。

返却されるエラーコードについては注意が必要です。公式のエラーコード一覧に記載されているのは 400・401・402・422・429・500・503 の 7 つで、422 は「リクエストに無効なパラメーターが含まれている」場合と説明されています。ただし、廃止済みのモデル名を指定した際に具体的にどのコードが返るかは公式ドキュメントに明示されていません。該当のログを確認する際は、ステータスコードだけでなくレスポンスボディの error.messageまで確認することをおすすめします。

現在利用できるモデル ID は、公式の Lists Models エンドポイントで確認できます。

curl https://api.deepseek.com/models \
  -H "Authorization: Bearer ${DEEPSEEK_API_KEY}"

公式ドキュメントに掲載されているレスポンス例では、deepseek-v4-flashdeepseek-v4-proの 2 件のみが返ります。移行作業の前後で、このエンドポイントの結果を突き合わせると確実です。

参照: Lists Models(DeepSeek API Docs)
https://api-docs.deepseek.com/api/list-models

影響範囲の棚卸し

モデル名は、アプリケーションコード以外にも散らばりやすい設定値です。以下の観点で確認すると漏れが減ります。

  • アプリケーションコード内の文字列リテラル
  • 環境変数(.env、Kubernetes の ConfigMap / Secret、CI/CD のパイプライン変数)
  • 設定ファイル(YAML・JSON・TOML)
  • SDK やフレームワークの初期化パラメーター
  • ローコードツールやワークフロー基盤の GUI 上の設定値
  • エージェント系ツール(Claude Code、OpenCode など)の接続プロファイル
  • ゲートウェイ経由の間接利用(OpenRouter などのルーティングサービス、社内の LLM プロキシー)
  • 運用ドキュメントや Runbook に記載されたサンプルコマンド

リポジトリー内の検索は、次のようなコマンドで一括して行えます。

grep -rn -e "deepseek-chat" -e "deepseek-reasoner" \
  --include="*.py" --include="*.js" --include="*.ts" \
  --include="*.yaml" --include="*.yml" --include="*.json" \
  --include="*.env*" .

稼働中のホスト側は、環境変数を直接確認します。

env | grep -i deepseek

コード検索で見つかるのは全体の一部にすぎません。GUI で設定するツール、外部の SaaS 側に保存された接続設定、チームメンバーの手元にあるローカル設定などは grep では到達できないため、利用箇所の一覧を人手で棚卸しする工程を別途設けることをおすすめします。

モデル名の置き換えだけでは終わらない設定差分

移行作業で見落としやすいのが、モデル名を変えた結果として挙動が変わる部分です。公式の Thinking Mode ガイドに記載されている仕様のうち、実務に影響が大きいものを挙げます。

1. 推論モードの既定値が有効になっている

thinkingパラメーターの既定値は enabledです。つまり、deepseek-chat(非推論モード相当)を使っていた実装が deepseek-v4-flashへ名前を変えただけの場合、推論モードで動作するようになります。生成トークン数が増えるため、レイテンシーと課金額の双方が変化します。

従来と同じ非推論モードを維持する場合は、明示的に無効化します。OpenAI SDK では extra_body経由で渡します。

response = client.chat.completions.create(
    model="deepseek-v4-flash",
    messages=messages,
    extra_body={"thinking": {"type": "disabled"}},
)

旧モデル名との対応をまとめると次のようになります。

旧モデル名相当する設定
deepseek-chatdeepseek-v4-flashthinking.type: disabled
deepseek-reasonerdeepseek-v4-flashthinking.type: enabled
2. 推論モードでは一部のパラメーターが機能しない

参考: Thinking Mode(DeepSeek API Docs)
“Thinking mode does not support the temperature, top_p, presence_penalty, or frequency_penalty parameters.”
(推論モードは temperature、top_p、presence_penalty、frequency_penalty の各パラメーターに対応していません)
https://api-docs.deepseek.com/guides/thinking_mode

公式ドキュメントによると、これらのパラメーターを指定してもエラーにはならず、既存ソフトウェアとの互換性のために無視される仕様です。出力を安定させる目的で temperatureを 0 に設定していた実装は、推論モードでは意図した効果が得られないまま、エラーも出さずに動き続けることになります。出力のばらつきが変わったように見える場合は、この点を疑うと切り分けが早くなります。

3. reasoning_contentが追加で返る

推論モードでは、思考過程が contentと同じ階層の reasoning_contentとして返却されます。レスポンスをそのままログや画面に流している実装では、想定外の内容が混ざる可能性があります。

4. ツール呼び出しでは reasoning_contentの返送が必要

ツール呼び出しを伴うターンでは、その reasoning_contentを後続のリクエストへ渡す必要があり、正しく返送しない場合は 400 エラーが返ると明記されています。一方、ツール呼び出しを伴わないターンでは返送不要で、渡しても無視されます。エージェント用途で DeepSeek を使っている場合、この差分は移行後の不具合として表面化しやすい部分です。

5. 推論の深さの指定方法

推論の深さは reasoning_effortで制御し、既定値は highです。互換性のために lowmediumhighへ、xhighmaxへマッピングされます。Claude Code や OpenCode などの複雑なエージェントリクエストでは、自動的に maxが設定される仕様です。Anthropic 互換フォーマットを使う場合は、output_config.effortが対応するパラメーターになります。

V4-Flash と V4-Pro の選択基準

移行のタイミングは、2 モデルのどちらを使うかを見直す機会でもあります。判断材料を整理します。

判断軸V4-Flash が適する場合V4-Pro が適する場合
処理の性質分類、抽出、要約、定型的な変換複雑な推論、大規模なコードベースの分析
求める精度一定の精度で十分知識量と推論の深さが結果を左右する
並列度高い(同時実行数の上限 2500)中程度(同上 500)
コスト感度高い品質を優先できる

旧エイリアスはいずれも V4-Flash へルーティングされていたため、単純に移行するだけであれば deepseek-v4-flashを指定するのが従来の挙動に最も近くなります。V4-Pro への切り替えは、移行そのものとは分けて評価することをおすすめします。同時に変更すると、精度・レイテンシー・コストのどの変化がどちらに起因するのか判別できなくなるためです。

具体的な単価と、コストへの影響については次のセクションで扱います。

料金の現状と他社 AI とのポジション

DeepSeek V4 をめぐる情報のなかで、最も混乱が大きいのが料金です。ここでは公式料金表に記載されている現在値をまず確定させ、そのうえで報道されている時間帯課金がどの段階にあるのかを切り分けます。

公式料金表の現在値とキャッシュヒット単価

公式の Models & Pricing ページに記載されている単価は次のとおりです(100 万トークンあたり、2026 年 7 月 27 日確認)。

課金区分deepseek-v4-flashdeepseek-v4-pro
入力(キャッシュヒット)$0.0028$0.003625
入力(キャッシュミス)$0.14$0.435
出力$0.28$0.87

注目すべきはキャッシュヒット時の単価です。V4-Flash ではキャッシュミス時の 50 分の 1、V4-Pro では約 120 分の 1 まで下がります。DeepSeek のコンテキストキャッシュはプロンプトの先頭が一致した場合に自動で適用される仕組みのため、システムプロンプトや参照ドキュメントをリクエストの先頭に固定して配置するだけで、入力側のコストが大きく変わります。

ただし、公式ドキュメントではキャッシュはベストエフォートとされており、ヒット率は保証されません。実効コストを把握するには、レスポンスに含まれるキャッシュヒット / ミスのトークン数を記録して集計する必要があります。

なお、料金は変更される可能性があることが公式に明記されています。

参考: Models & Pricing(DeepSeek API Docs)
“Product prices may vary and DeepSeek reserves the right to adjust them.”
(製品価格は変動する可能性があり、DeepSeek は価格を調整する権利を留保します)
https://api-docs.deepseek.com/quick_start/pricing

時間帯課金は「発表済み・未適用」である

時間帯によって単価が変わる仕組みについては、情報の階層を分けて理解することをおすすめします。同じ「サージプライシング」という言葉でも、公式に確認できる範囲がまったく異なります。

階層内容確認できる場所
公式ドキュメント単一の固定レート。時間帯別の記載なしModels & Pricing ページ
公式の事前通知正式版の公開に合わせて峰谷課金を導入する予定。ピーク時は 2 倍2026 年 6 月 29 日に API 利用者へ送付されたメール(複数の報道機関が報道)
二次情報・非公式サイトすでに適用が開始されたとする記述公式ドキュメントでは確認できない

つまり、発表そのものは実在します。DeepSeek が 6 月 29 日に API 利用者へ通知し、複数の報道機関が価格表とあわせて報じています。一方で、本記事の確認時点(2026 年 7 月 27 日)における公式の料金表は単一レートのままで、適用開始日の記載もありません。

報道されているピーク時間帯は北京時間(UTC+8)の 9:00〜12:00 と 14:00〜18:00 です。日本標準時に換算すると次のようになります。

区分北京時間日本時間
ピーク(午前)9:00〜12:0010:00〜13:00
ピーク(午後)14:00〜18:0015:00〜19:00

日本の業務時間とほぼ重なる点は、日本国内から利用する場合の重要な論点です。「深夜に回せば安くなる」という発想は成立しますが、日本時間の日中はほぼピークにかかることになります。なお、この時間帯を毎日とする報道と平日のみとする報道が混在しており、この点は確定していません。

仮に報道どおり 2 倍が適用された場合の影響を試算すると、次のようになります。

  • 24 時間均等に負荷を分散している場合: 約 29.2% の増加
  • 平日のみ適用され、負荷を 1 週間で均等に分散している場合: 約 20.8% の増加
  • ピーク帯を完全に回避できる場合: 増加なし

現時点で推奨できるのは、バッチジョブの実行時刻を動かすことではなく、リクエストごとにタイムスタンプ・モデル名・トークン数を記録しておくことです。適用が始まった時点で、ピーク帯とオフピーク帯のどちらにコストが偏っているかを後から集計できる状態を作っておけば、スケジュール変更の判断を数値に基づいて行えます。逆に、まだ適用されていない料金体系に合わせて夜間バッチへ移行すると、監視や障害対応の負荷だけが増える結果になりかねません。

Claude・GPT・Gemini・Kimi K3 との比較

まず価格面のポジションを整理します。各社の公開レート(100 万トークンあたり、標準ティア、2026 年 7 月 27 日確認)は次のとおりです。

モデル入力出力
DeepSeek V4-Flash$0.14$0.28
DeepSeek V4-Pro$0.435$0.87
Gemini 3.6 Flash$1.50$7.50
Claude Sonnet 5(導入価格)$2.00$10.00
Kimi K3$3.00$15.00
Claude Opus 5$5.00$25.00
GPT-5.6 Sol$5.00$30.00

入力 1000 万トークン、出力 200 万トークン、キャッシュヒットなしという条件で試算すると、金額差は次のようになります。

モデル試算額V4-Flash 比
DeepSeek V4-Flash$1.961.0 倍
DeepSeek V4-Pro$6.093.1 倍
Gemini 3.6 Flash$30.0015.3 倍
Claude Sonnet 5(導入価格)$40.0020.4 倍
Kimi K3$60.0030.6 倍
Claude Opus 5$100.0051.0 倍
GPT-5.6 Sol$110.0056.1 倍

V4-Flash はフロンティア級に近い性能を持つモデルとしては突出して安く、この価格差が DeepSeek を検討対象に入れる最大の理由になります。ただし、この試算はキャッシュヒットを考慮していません。各社ともプロンプトキャッシュやバッチ処理による割引を用意しているため、実際のワークロードで比較する場合は、自社の再利用率を織り込んだ試算が必要です。

性能面については、公式のモデルカードに比較表が掲載されています。V4-Pro の最大推論モードを基準にした主な結果を抜粋します。

ベンチマークDeepSeek V4-Pro Max比較対象の最高値
LiveCodeBench93.591.7(Gemini 3.1 Pro)
Codeforces(レーティング)32063168(GPT-5.4 xHigh)
SWE-bench Verified80.680.8(Opus 4.6 Max)
GPQA Diamond90.194.3(Gemini 3.1 Pro)
SimpleQA-Verified57.975.6(Gemini 3.1 Pro)
MRCR 1M(長文脈)83.592.9(Opus 4.6 Max)

傾向としては、コーディング系のベンチマークで上位に立つ一方、事実知識の正確性と長文脈の読解では差をつけられています。コード生成やリファクタリングの用途では有力な選択肢になりますが、社内ドキュメントの検索や事実確認を伴う用途では、出力の裏取りを前提とした運用設計が必要になります。

ここで注意したいのは、この比較表の対象が 2026 年 4 月時点の世代である点です。Opus 4.6、GPT-5.4、Gemini 3.1 Pro が比較対象になっていますが、その後に Claude Opus 5、GPT-5.6、Gemini 3.6 Flash、Kimi K3 が相次いで公開されています。ベンダー自身が公開する比較表は、公開時点の競合を対象にしたスナップショットであり、時間の経過とともに実態と乖離していきます。最新の相対的な位置づけを確認する場合は、Artificial Analysis のような第三者評価を併せて参照することをおすすめします。

機密情報を扱えるか|利用経路別のセキュリティ評価

「DeepSeek に業務データを入れてよいか」という問いには、モデル単位では答えが出ません。DeepSeek V4 はウェイトが MIT ライセンスで公開されているため、どの経路で使うかによってデータの所在も適用される法令も変わるためです。ここでは公的機関の見解と公式規約を確認したうえで、経路ごとにリスクを整理します。

個人情報保護委員会とデジタル庁の注意喚起の内容

個人情報保護委員会事務局は、令和 7 年 2 月 3 日に「DeepSeek に関する情報提供」を公表しています(令和 7 年 3 月 5 日更新)。指摘されているのは次の 2 点です。

  • DeepSeek 社が取得した個人情報を含むデータは、中華人民共和国に所在するサーバーに保存されること
  • 当該データについては、中華人民共和国の法令が適用されること

参考: DeepSeek に関する情報提供(個人情報保護委員会事務局)
「当該データについては、中華人民共和国の法令が適用されること」
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/250203_alert_deepseek/

適用され得る法令の例として、中華人民共和国個人情報保護法、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、中華人民共和国国家情報法が挙げられています。対象は Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.、Beijing DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd. および関連会社です。

ここで 1 点、記事によって記述が分かれている部分があります。公表当初は「プライバシーポリシーが中国語と英語表記のみである」旨が記載されていましたが、2026 年 2 月 28 日に日本語版のプライバシーポリシーが公表されたことに伴い、令和 7 年 3 月 5 日の更新でこの記載は削除されています。現在も「中国語と英語のみ」と説明している解説記事が見られますが、この点は事実と異なる状態になっています。

行政機関向けには、デジタル社会推進会議幹事会事務局が令和 7 年 2 月 6 日付で「DeepSeek 等の生成 AI の業務利用に関する注意喚起」を各府省庁へ発出しています。業務利用を検討する場合は、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)とデジタル庁に助言を求めるよう求める内容です。公共調達に関わる案件では、この事務連絡が判断の起点になります。

なお、これらはいずれも利用を禁止するものではなく、留意点の周知という位置づけです。

利用規約とプライバシーポリシーが定める入力データの扱い

判断材料をより具体的にするため、公式の規約類を確認します。

プライバシーポリシー(最終更新 2026 年 2 月 10 日)では、以下が明記されています。

  • 収集対象に、テキスト入力、音声入力、プロンプト、アップロードされたファイル、チャット履歴が含まれる
  • 利用目的に「機械学習モデルやアルゴリズムなどの当社の技術のトレーニングおよび改善」が含まれる
  • 収集した情報は中華人民共和国にある安全なサーバーに保存する
  • 情報はアカウントを保有している間、保持される
  • 利用可能な権利として「当社モデル訓練または技術最適化のための個人データ利用を拒否する権利」が列挙されている

学習利用の拒否権が明記されている点は、把握しておく価値があります。ただし、これは設定画面のトグルではなく、privacy@deepseek.com宛のリクエストとして行使する形式です。組織として利用する場合、拒否の申し出とその記録が残せるかどうかが運用上の論点になります。

利用規約側では、次の条項が実務に関係します。

第 4.3 条

暗号化処理・匿名化処理・不可逆性を前提に、最小限の範囲でインプットとアウトプットを基礎技術の提供や改善に使用することがある。許可しない場合はフィードバックとして申し出る

第 3.3 条

法令およびコンプライアンス上の要件を満たすため、入力および出力の確認、リスクフィルタリング機構の構築、違法なコンテンツの特徴に関するデータベースの作成を含む技術的手段を使用する権利を有する

第 4.2 条

インプットの権利はユーザーに帰属し、アウトプットの権利はユーザーへ譲渡される

第 9.1 条

準拠法は中華人民共和国大陸の法令、管轄裁判所は Hangzhou DeepSeek 社の登記上の事務所所在地

第 3.3 条は見落とされやすい条項です。入力と出力が確認の対象になり得ることが明示されており、これは学習利用の可否とは別の論点になります。

もう 1 点、API を利用する場合の重要な注意があります。プライバシーポリシーには、オープンプラットフォームサービスを使って開発者が構築したダウンストリームのアプリケーションで、エンドユーザーから収集される個人情報の処理は本ポリシーの対象外である旨が記載されています。API を組み込んだサービスを提供する側は、自らが管理者としてエンドユーザーへポリシーを開示する必要があります。また、API 利用そのものには「DeepSeek オープンプラットフォーム利用規約」が別途適用されます。

公式 API・第三者ホスティング・自社ホスティングのリスク比較

以上を踏まえ、利用経路ごとに整理します。

経路データの所在適用される法令学習・確認の対象
Web / アプリ中国国内のサーバー中国の法令ポリシー上、トレーニングと改善の対象。拒否はメールでの申し出
公式 API中国国内のサーバー中国の法令。準拠法も中国大陸規約上、基礎技術の改善と入出力の確認の対象になり得る
第三者ホスティング事業者の所在・リージョンに依存事業者の契約と所在国の法令事業者の規約に依存。DeepSeek 社へは送信されない
自社ホスティング自社の管理下自社が従う法令のみ外部への送信が発生しない

この表の要点は、「DeepSeek を使うかどうか」と「DeepSeek 社にデータを渡すかどうか」がまったく別の問題であることです。自社ホスティングであれば、モデルの出自にかかわらず、データは自社のネットワークから出ません。第三者ホスティングの場合は、DeepSeek 社ではなくそのホスティング事業者との契約が判断対象になります。

実務的な判断の目安としては、次のような整理が使えます。

  • 公開情報の要約や一般的な技術的質問: いずれの経路でも大きな問題は生じにくい
  • 社外秘だが個人情報を含まない情報: 公式 API の利用可否は、自組織の情報取扱規程と越境移転の扱いを確認したうえで判断する
  • 個人情報、顧客データ、認証情報、ネットワーク構成情報: 公式 API と Web / アプリは避け、自社ホスティングまたは契約で担保された第三者ホスティングを前提とする
  • 行政機関および重要インフラに関わる業務: デジタル庁の事務連絡に沿って、NISC およびデジタル庁へ助言を求める

ネットワーク構成情報を機微情報として扱う点は、インフラエンジニアにとって特に重要です。コンフィグやトポロジー図、IP アドレス設計、機器のバージョン情報は、単体では機密性が低く見えても、まとまると攻撃対象領域そのものを記述した資料になります。

Kimi K3 との違い(ライセンスと自前運用の可否)

同じく中国発のモデルとして比較されることが多い Kimi K3 とは、判断のポイントが異なります。

DeepSeek V4 は、V4-Pro と V4-Flash の両方がウェイトを MIT ライセンスで公開しており、Hugging Face と ModelScope から取得できます。MIT ライセンスは商用利用・改変・再配布に制限を設けないため、「性能は評価したいが、データを国外へ出せない」という要件に対して、自社ホスティングという回答が成立します。この選択肢を持てるかどうかが、クローズドなモデルや、ウェイトが公開されていない、あるいは公開条件が異なるモデルとの決定的な差になります。

参照: deepseek-ai/DeepSeek-V4-Pro(Hugging Face)
https://huggingface.co/deepseek-ai/DeepSeek-V4-Pro

一方で、ウェイトが公開されていても、学習データと学習用プログラムは公開されていません。この点で一般的な OSS とは性質が異なり、モデルの挙動そのものを完全に検証できるわけではない点は、自社ホスティングを選んだ場合でも変わりません。特定の話題に対する出力の偏りや、意図しない挙動の可能性は、自社環境で評価する必要があります。

中国製モデルを業務で評価する際の観点全般については、関連記事『Kimi K3 のセキュリティリスクと対処』でデータの取り扱いと攻撃耐性の両面から整理しています。あわせて参照すると、モデルごとの差分が把握しやすくなります。

インフラエンジニアの活用方法

価格とセキュリティの整理ができたところで、実際の業務でどう使うかを具体化します。ここでは、インフラ運用の現場で効く使い方と、実装上の選択肢を扱います。

1M コンテキストが効く実務シーン

100 万トークンのコンテキストは、日本語でおおよそ 70 万字前後に相当します。インフラ運用では、次のような場面で分割せずに扱えることが利点になります。

  • 大規模なコンフィグの差分レビュー: 複数台の設定を丸ごと入力し、意図しない差異を洗い出す
  • 障害時のログ調査: 複数機器のログを時系列で並べ、事象の前後関係を整理する
  • 設計書と実機設定の突き合わせ: パラメーターシートと show running-configの出力を同時に読ませる
  • ベンダードキュメントの横断確認: リリースノートと設定ガイドをまとめて入力し、変更点を抽出する

ただし、いずれの用途もコンフィグやログという機微情報を入力する行為である点に注意が必要です。前のセクションで整理したとおり、公式 API を使う場合はこれらのデータが中国国内のサーバーへ送信されます。用途としては有効でも、経路の選択と切り離して考えることはできません。

また、V4-Flash の非推論モードは長い入力に対する精度が推論モードより低い傾向があり、公式のベンチマークでも長文脈の指標に大きな差が出ています。長い入力を扱う場合は、コスト削減のために非推論モードを選ぶと期待した精度が得られない可能性があります。

OpenAI 互換・Anthropic 互換エンドポイントの使い分け

DeepSeek API は 2 種類のリクエスト形式に対応しており、ベース URL で切り替えます。

形式ベース URL
OpenAI 互換https://api.deepseek.com
Anthropic 互換https://api.deepseek.com/anthropic

Anthropic 互換エンドポイントには、モデル名のマッピング仕様があります。

参考: Anthropic API(DeepSeek API Docs)
“Models starting with claude-opus are mapped to deepseek-v4-pro”
(claude-opus で始まるモデル名は deepseek-v4-pro にマッピングされます)
https://api-docs.deepseek.com/guides/anthropic_api

claude-haikuclaude-sonnetで始まるモデル名は deepseek-v4-flashへマッピングされ、対応していないモデル名を渡した場合も deepseek-v4-flashへ自動的に割り当てられます。指定したモデル名がエラーにならずに別のモデルへ吸収されるため、意図しないモデルで動き続ける状態に気づきにくい点は把握しておくとよいです。

公式ドキュメントには、Claude Code を DeepSeek のバックエンドとして動かす手順も掲載されています。環境変数で接続先を切り替える形式です。

export ANTHROPIC_BASE_URL=https://api.deepseek.com/anthropic
export ANTHROPIC_AUTH_TOKEN=<DeepSeek の API キー>
export ANTHROPIC_MODEL=deepseek-v4-pro[1m]
export ANTHROPIC_DEFAULT_HAIKU_MODEL=deepseek-v4-flash
export CLAUDE_CODE_SUBAGENT_MODEL=deepseek-v4-flash

モデル名に付く [1m]は 1M コンテキストを指定する記法です。サブエージェント用に安価な V4-Flash を割り当てることで、コストを抑える構成が公式に示されています。なお、DeepSeek 側のドキュメントには、これらのエージェントが第三者提供であり、有効性や安全性を保証しないという注記が添えられています。

この構成を業務で使う場合、コーディングエージェントが読み取ったリポジトリーの内容がそのまま DeepSeek のサーバーへ送信される点を理解しておく必要があります。個人の学習用途と業務用途では、判断が変わる部分です。

自社ホスティングを選ぶ場合のハードウェア要件の目安

データを外部へ出せない要件がある場合、MIT ライセンスで公開されたウェイトを自社環境で動かす選択肢があります。

公式のモデルカードでは、以下のチェックポイントが提供されています。

モデル総パラメーター数精度
DeepSeek-V4-Flash-Base284BFP8 Mixed
DeepSeek-V4-Flash284BFP4 + FP8 Mixed
DeepSeek-V4-Pro-Base1.6TFP8 Mixed
DeepSeek-V4-Pro1.6TFP4 + FP8 Mixed

公式ドキュメントには、必要な GPU 構成が数値として明示されていません。パラメーター数と精度から概算すると、FP8 でウェイトを保持する場合は 1 パラメーターあたり約 1 バイトが目安となるため、V4-Flash で約 284GB、V4-Pro で約 1.6TB という規模になります。これに加えて、長いコンテキストを扱う際は KV キャッシュ分のメモリーが必要です。

つまり、V4 系列はどちらも個人の PC やワークステーションで動かす規模ではなく、複数 GPU を搭載したサーバー、V4-Pro では複数ノードの構成が前提になります。推論エンジンとしては vLLM と SGLang が想定されており、ローカル実行の詳細な手順はリポジトリー内の inferenceフォルダーで案内されています。Think Max モードを使う場合は、コンテキストウィンドウを 384K トークン以上に設定することが推奨されています。

オープンウェイトモデルをオンプレミスで採用する判断軸そのものについては、関連記事『セキュリティ業務のオープンウェイト AI モデル|オンプレ選定のポイント』で整理しています。より小規模なモデルで手元の環境から試す場合は、関連記事『Ollama でローカル LLM を動かす手順』が入口になります。後者では推論 API の公開露出リスクにも触れているため、自社ホスティングを検討する段階で確認しておく価値があります。

まとめ

DeepSeek V4 をめぐる情報は、公式ドキュメントで確認できる事実と、通知や報道を経由した情報が混在した状態にあります。確実なのは旧モデル名の廃止で、これはすでに実行済みです。一方、時間帯課金は発表としては実在するものの、公式の料金表には反映されていません。機密情報を扱えるかどうかは、モデルではなく利用経路によって結論が変わります。

  • 旧モデル名の廃止は日本時間 2026 年 7 月 25 日 0:59 に実行済み
  • 単純な名前の置き換えでは推論モードが既定で有効になる点に注意
  • 推論モードでは temperature 等がエラーなく無視される仕様
  • 公式料金表は単一固定レートで、時間帯別の記載なし
  • 時間帯課金は発表済み・未適用のため、まず計装から着手
  • 公式 API 利用時はデータが中国国内に保存され中国法令が適用
  • MIT ライセンスのウェイト公開により自社ホスティングという選択肢

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

関西を拠点に活動する、現役インフラエンジニア。経験20年超。

大手通信キャリアにて、中〜大規模インフラ(ネットワーク・サーバ・クラウド・セキュリティ)の設計・構築およびプロジェクトマネジメントに従事。現場で直面した技術課題への対処や、最新の脆弱性情報への実務対応を、一次情報として発信しています。

保有資格
CCIE Lifetime Emeritus(取得から20年以上)/ VCAP-DCA / Azure Solutions Architect Expert

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