Azure Managed Grafana 12 の新機能|Entra 認証と移行のポイント

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はじめに

Microsoft は 2026 年 3 月に、データ可視化のフルマネージドサービスである Azure Managed Grafana 12 をリリースしました。

本リリースには、よりセキュアな認証方式の導入、ログおよびメトリクス解析の高速化、データベース向けダッシュボードの刷新など、システム監視を効率化する複数のアップデートが含まれています。本記事では、インフラエンジニアやシステム管理者に向けて、バージョン 12 の新機能と Azure ネイティブサービスとの連携方法、既存環境からの移行シナリオを客観的に解説します。

この記事でわかること
  • Azure Managed Grafana 12 の概要と、Entra 認証によるアクセス制御の仕組み
  • Azure Monitor や Prometheus との連携によるログ・メトリクス解析の効率化
  • Azure PostgreSQL・Azure SQL・SQL Managed Instance 向けダッシュボードの活用
  • Current User 認証の制約と、認証方式の使い分け
  • ベースとなる OSS Grafana 12 の主な新機能(Git Sync など)
  • 既存の Grafana 環境(VM 上のセルフホスト等)からの移行・共存シナリオ

Azure Managed Grafana 12 の概要とアクセス制御の強化

Azure Managed Grafana は、オープンソースの Grafana を Azure インフラストラクチャ上で実行するためのマネージドサービスです。バージョン 12 では、セキュリティとガバナンスの観点で重要な認証機能のアップデートが行われました。

Entra ID 認証の統合|サインインユーザー権限でのクエリ実行

従来の運用では、データソースへのアクセスにマネージド ID(Managed Identity)やサービスプリンシパルを利用するのが一般的でした。バージョン 12 では、これに加えて 「現在のユーザーの Entra 認証(Current User authentication)」 がサポートされました。

参考: Introducing Azure Managed Grafana 12(Microsoft Community Hub)
“Current-user Entra authentication is now available in Azure data sources. That means Grafana admins can configure supported data sources to re-use the logged-in user’s credentials when issuing queries.”
(現在のユーザーの Entra 認証が Azure データソースで利用可能になりました。つまり Grafana 管理者は、クエリ発行時にサインインしたユーザーの資格情報を再利用するように、サポートされているデータソースを構成できます。)
https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/introducing-azure-managed-grafana-12/4500673

これにより、ログインしているユーザー自身の Entra ID 権限に基づいてデータアクセスが制御されます。ユーザーごとに最小権限の原則(Least-privilege access)を適用しやすくなり、セキュリティリスクの低減につながります。なお、この方式には制約もあるため、詳細は後述の「Current User 認証の制約と認証方式の選定」で整理します。

Azure Monitor や Azure Data Explorer との連携

この Current User 認証は、以下の主要な Azure ネイティブデータソースでサポートされています。

  • Azure Monitor
  • Azure Data Explorer
  • Azure Monitor Managed Service for Prometheus

各データソースに個別の認証情報を設定・管理する運用負荷が軽減されるため、エンタープライズ環境でも、セキュアで透過的なデータ可視化基盤を展開しやすくなります。

Current User 認証の制約と認証方式の選定

Current User 認証はゼロトラストの観点で有用ですが、運用前に把握しておきたい制約があります。

バックエンド機能(アラート等)には注意が必要

Current User 認証は、サインインしているユーザーの資格情報を使ってクエリを実行します。そのため、ユーザーセッションを前提としないバックエンド処理には標準では対応しません

参考: Azure Monitor Current User authentication(Grafana Labs)
“Current User authentication does not inherently support backend features such as alerting.”
(Current User 認証は、アラートのようなバックエンド機能を本質的にはサポートしません。)
https://grafana.com/docs/grafana-cloud/whats-new/azure-monitor-current-user-authentication/

このため、アラートなどを利用する場合は、サインインユーザーが存在しないときに使うサービス資格情報(マネージド ID 等)をフォールバックとして併せて設定する運用が現実的です。

推奨される認証方式の使い分け

公式は、認証方式について次の優先順位を案内しています。

参考: Secure Azure Managed Grafana(Microsoft Learn)
“Prioritize Current User authentication for data sources… When Current User authentication is not available, use managed identities as the fallback authentication method.”
(データソースでは Current User 認証を優先し、利用できない場合はマネージド ID をフォールバックの認証方式として使用します。)
https://learn.microsoft.com/en-us/azure/managed-grafana/secure-azure-managed-grafana

マネージド ID をフォールバックとして使う場合は、その ID に Monitoring Reader ロールを割り当てる運用が推奨されています。データソースの認証方式は、用途に応じて次のように整理できます。

認証方式概要主な用途
Current User(現在のユーザー)サインインユーザーの Entra 権限でクエリを実行ユーザー単位の最小権限・ゼロトラスト重視
マネージド IDインスタンスの ID でクエリを実行アラート等のバックエンド機能、共通アクセス
サービスプリンシパル(App 登録)アプリ登録の資格情報でクエリを実行きめ細かな制御が必要な場合

アラートやレポートなどバックエンド機能を使う環境では、Current User 認証を主としつつ、フォールバックにマネージド ID を設定する構成が、セキュリティと機能性のバランスを取りやすい選択肢です。

ログ解析と Prometheus メトリクス監視の効率化

Azure Managed Grafana 12 では、ログおよびメトリクスを探索・可視化する際の操作性が向上しています。

Azure Monitor ログの高速化と新しいクエリビルダー

Azure Monitor のログ解析に、新しいクエリビルダーが導入されました。これにより、複雑な KQL(Kusto Query Language)を手書きせずに、数回のクリックでクエリの作成や絞り込みができます。あわせて Grafana Explore のパフォーマンスも強化され、大量のログデータの読み込みや検索が高速化されています。

参考: Introducing Azure Managed Grafana 12(Microsoft Community Hub)
“Grafana Explore can now query and render up to 30K log records at a time, so you get much faster load times, faster searches, and more responsive navigation through large log volumes.”
(Grafana Explore は一度に最大 3 万件のログレコードをクエリ・レンダリングできるようになり、大規模なログでも読み込みや検索が高速化し、ナビゲーションの応答性が向上しました。)
https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/introducing-azure-managed-grafana-12/4500673

Prometheus クエリの強化と OpenTelemetry(OTel)モード

Prometheus メトリクスの探索機能も更新され、プレフィックスやサフィックスによるサイドバーフィルターや、group-by ラベルのサポートが追加されました。これにより、トラブルシューティング時のメトリクス絞り込みがしやすくなります。

さらに、ネイティブヒストグラムのサポートに加え、OpenTelemetry(OTel)モードが実装されました。OTLP メトリクスをクエリする際のラベル結合の複雑さが自動化され、分析の手間が軽減されています。

Azure データベース向けダッシュボードの拡充

ゼロからダッシュボードを構築する手間を省き、迅速に監視を開始するための事前構築済み(プレビルト)ダッシュボードも更新されました。

Azure PostgreSQL・Azure SQL・SQL Managed Instance 向けダッシュボード

バージョン 12 では、Azure Database for PostgreSQL、Azure SQL、SQL Managed Instance(SQL MI) を監視するための、更新された事前構築済みダッシュボードが組み込まれています。

参考: Introducing Azure Managed Grafana 12(Microsoft Community Hub)
“Use updated, pre-built database monitoring dashboards for Azure PostgreSQL, Azure SQL, and SQL Managed Instance (SQL MI).”
(Azure PostgreSQL、Azure SQL、SQL Managed Instance(SQL MI)向けの、更新済み事前構築ダッシュボードを利用できます。)
https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/introducing-azure-managed-grafana-12/4500673

これらのテンプレートを活用すると、パネルの配置や設定に時間を割くことなく、データベースのパフォーマンス分析や異常検知といった本来の運用業務に集中しやすくなります。たとえば、Azure SQL Database へデータを集約する基盤(関連記事『ADF ストレージイベントトリガーで CSV を自動取り込みする手順』で構築したような構成)と組み合わせれば、取り込みから監視までを一貫して可視化できます。

ベースとなる OSS Grafana 12 の主な新機能

Azure Managed Grafana 12 は、オープンソースの Grafana 12 を基盤としています。Azure 固有の連携機能に加えて、OSS 側で導入された次の機能も、インフラ運用の観点で押さえておくとよいと思います。

Git Sync(observability as code)

ダッシュボードをコードとして管理する GitOps ワークフローです。

参考: Grafana 12 release(Grafana Labs)
“Say hello to Git Sync, a new observability as code tool in Grafana 12 that brings Git workflows directly into the Grafana UI.”
(Grafana 12 の新しい observability as code ツール「Git Sync」は、Git ワークフローを Grafana の UI に直接取り込みます。)
https://grafana.com/blog/grafana-12-release-all-the-new-features/

Grafana から離れずにダッシュボードの変更のマージ、ブランチの作成、プルリクエストの作成ができます。現時点ではダッシュボードとフォルダーが対象で、Grafana 12 では実験的(experimental)な機能として提供されています。変更履歴の追跡やレビューを既存の Git 運用に乗せられるため、複数人での監視基盤運用に向いています。

Dynamic Dashboards(動的ダッシュボード)

大規模化したダッシュボードを扱いやすくする機能です。タブによるレイアウト、パネルや行・タブの表示/非表示ルール、利用可能なスペースに応じてパネルサイズを調整する自動グリッドレイアウト、ナビゲーション用のコンテンツアウトラインなどが追加されています。データソースが増えてパネルが煩雑になりがちな監視基盤で、視認性の維持に役立ちます。

Drilldown(ドリルダウン探索)

メトリクス・ログ・トレースに対して、コードを書かずにポイント&クリックで分析できる Drilldown 体験が一般提供(GA)されました。KQL や PromQL を都度書かずに傾向を追えるため、一次調査の効率化につながります。

補足: マネージドサービスでの提供状況に注意
Git Sync など一部の OSS 機能は実験的な位置づけです。Azure Managed Grafana で有効化・サポートされているかは、ポータルの機能や公式ドキュメントで確認することをおすすめします。なお、OSS 側では既に 12.4 などの点リリースが進んでおり、マネージドサービスの提供バージョンとは差がある場合があります。

既存の Grafana 環境からの移行パスと共存シナリオ

オンプレミスや IaaS(仮想マシン)上で独自に Grafana を運用している環境から、Azure Managed Grafana 12 への移行を検討する際のポイントを解説します。

VM 上のセルフホスト環境からマネージドサービスへ移行する利点

自社で Grafana サーバーをホストする場合、OS のパッチ適用、スケーリング、可用性の担保といった運用維持のコスト(Toil)が発生します。Azure Managed Grafana へ移行すると、これらのインフラ管理から解放されるだけでなく、バージョン 12 で強化された Current User の Entra 認証など、Azure ネイティブなセキュリティ機能をそのまま利用できます。

参考: Introducing Azure Managed Grafana 12(Microsoft Community Hub)
“To try Grafana 12, you can create a new Azure Managed Grafana instance with Grafana 12 selected, or upgrade an existing instance from the Azure portal.”
(Grafana 12 を試すには、Grafana 12 を選択して新しい Azure Managed Grafana インスタンスを作成するか、Azure ポータルから既存のインスタンスをアップグレードできます。)
https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/introducing-azure-managed-grafana-12/4500673

バージョン 11 からのアップグレードとハイブリッド運用の注意点

すでに Azure Managed Grafana 11 を利用している場合は、Azure ポータルから対象インスタンスのバージョンを選択し、バージョン 12 へインプレースアップグレードできます。

大規模な監視基盤では、リスクを抑えるために、新規でバージョン 12 のインスタンスを作成し、一部のダッシュボードやデータソース設定をエクスポート・インポートして並行稼働(ハイブリッド運用)させるアプローチも有効です。動作確認の完了後に古いインスタンスを廃止することで、ダウンタイムを抑えた移行につながります。

まとめ

本記事では、Azure Managed Grafana 12 の新機能と Azure ネイティブサービスとの連携、認証方式の選定、既存環境からの移行シナリオを解説しました。

  • 認証強化: Current User の Entra 認証により、ユーザー単位の最小権限を適用しやすくなった
  • 認証の制約: Current User 認証はアラート等のバックエンド機能に標準では非対応で、フォールバック設定が現実的
  • ログ解析: 新しいクエリビルダーと Explore の高速化で、最大 3 万件のログを扱いやすくなった
  • メトリクス: Prometheus の絞り込み強化と OTel モードで、分析の手間が軽減された
  • DB 監視: PostgreSQL・Azure SQL・SQL MI 向けの事前構築ダッシュボードが更新された
  • OSS 基盤: Git Sync や Dynamic Dashboards など、Grafana 12 由来の機能も活用できる
  • 移行: バージョン 11 からの直接アップグレードや、並行稼働による段階移行が選べる

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

関西を拠点に活動する、現役インフラエンジニア。経験20年超。

大手通信キャリアにて、中〜大規模インフラ(ネットワーク・サーバ・クラウド・セキュリティ)の設計・構築およびプロジェクトマネジメントに従事。現場で直面した技術課題への対処や、最新の脆弱性情報への実務対応を、一次情報として発信しています。

保有資格
CCIE Lifetime Emeritus(取得から20年以上)/ VCAP-DCA / Azure Solutions Architect Expert

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