はじめに
F5 BIG-IP の管理運用において、最も冷や汗をかく瞬間の一つが 「root パスワードを忘れてしまった」「なぜかログインできない」 という状況ではないでしょうか。 Web 管理画面(GUI)も SSH も弾かれてしまうと、手も足も出なくなってしまいます。
本記事では、そんな緊急事態に備えて、BIG-IP を シングルユーザーモード(Single User Mode)で起動し、強制的に root パスワードを再設定(リカバリ)する手順を解説します。 この手法は、BIG-IP のベースとなっている Linux OS の機能を活用したもので、v11.x 系統から v17.x 系統 まで幅広く適用可能な標準的な手順です。
- コンソール接続を使ったシングルユーザーモードへの入り方
- コマンドラインでのパスワード再設定手順
- (補足)ログインできる場合の通常のパスワード変更手順
作業前の前提条件と注意点
本手順を実施する前に、以下の 3 つの条件とリスクを必ず確認してください。 特に 「サービスが停止する」 点と 「SSH では実施できない」 点は非常に重要です。
【必須】コンソール接続環境
この作業は、OS が起動する前の段階(ブートローダー)で介入する必要があるため、ネットワーク経由の接続(SSH や Web GUI)からは実施できません。 必ず以下のいずれかの方法で、機器のコンソール画面を直接操作できる状態にしてください。
- 物理アプライアンスの場合
-
- シリアルコンソールケーブル(CONSOLE ポートへの接続)
- または VGA モニターと USB キーボードの直接接続
- Virtual Edition(VE/仮想版)の場合
-
- VMware vSphere Client や Hyper-V マネージャーなどのハイパーバイザー上のコンソール画面
【影響】サービス停止(通信断)の発生
シングルユーザーモードで起動している間、BIG-IP のメインプロセスである TMM(Traffic Management Microkernel)は起動しません。 つまり、ロードバランサとしての機能は完全に停止し、通信を処理できなくなります。 稼働中のシステムで実施する場合は、必ず計画的なメンテナンスウィンドウ(停止時間)を確保し、関係者への周知を行ってください。
【セキュリティ】物理アクセスの管理
本手順は、「コンソールにアクセスできる人間であれば、誰でも root 権限を奪取できる」ということを意味します。 セキュリティの観点から、BIG-IP 機器が設置されているサーバーラックや、ハイパーバイザーの管理画面へのアクセス権限は厳重に管理し、不正なユーザーが物理的に操作できないよう対策を講じてください。
パスワードリセット手順
まずは機器を再起動し、OS が立ち上がる直前の GRUB メニュー(ブートローダー画面) で割り込み操作を行います。ここが一番の難所ですので、焦らず操作してください。

機器の電源を入れるか、再起動(reboot)を行います。 黒い画面に白文字で GNU GRUB という画面が表示され、「Automatic boot in 3 seconds…」 のようなカウントダウンが始まります。
ここですぐに 【上下矢印キー(↑↓)】 を押してください。 キーを押すことでカウントダウンが止まり、自動起動を阻止できます。
矢印キーを使って、普段起動している(または起動したい)BIG-IP のバージョンを選択します(通常は一番上にあります)。 選択された状態で、キーボードの 【 e 】 キーを押します。
※ 画面下部に Press 'e' to edit the commands... といったガイドが表示されているはずです。
画面が切り替わり、起動オプションの記述が表示されます。 矢印キーを使ってカーソルを移動させます。
- v12.1.x 以降(GRUB2)の場合
-
argumentsという行を探し、その行の末尾(行の最後)にスペースを空けてsingleと入力します。 - v11.x 〜 v12.0 の場合
-
kernelで始まる行を探し、その行の末尾にスペースを空けてsingleと入力します。
入力できたら、以下のキーを押してシングルユーザーモードで起動させます。
- GRUB2 の場合: 【 Ctrl 】 + 【 x 】
- 以前のバージョンの場合: 【 Enter 】 を押した後に 【 b 】
黒い画面にログが流れ始めれば成功です。
起動処理が止まり、コマンドプロンプトが表示されたら、いよいよパスワードの変更を行います。
以下のようなプロンプトが表示され、入力待ち状態になっていることを確認します。
以下のようなプロンプトが表示され、入力待ち状態になっていることを確認します。
sh-4.2#※ バージョンによって sh-x.x# や switch_root# など表示が異なる場合がありますが、# が出ていれば OK です。
この状態では、ディスクが「読み取り専用(Read-Only)」になっている場合があるため、書き込みができるようにマウントし直します。 以下のコマンドを実行します。
mount -a※ 特にエラーメッセージが出なければ成功です。
root パスワードを変更するコマンドを実行します。
passwd root以下のように新しいパスワードを求められます。2回入力してください。
Changing password for user root.
New password: <--- 新しいパスワードを入力(画面には表示されません)
Retype new password: <--- 確認のためもう一度入力
passwd: all authentication tokens updated successfully.updated successfully と表示されれば変更完了です。
最後に、以下のコマンドでシステムを再起動し、通常のモードに戻します。
reboot再起動が完了したら、先ほど設定した新しい root パスワードでログインできるか確認してください。
【補足】ログインできる場合のパスワード変更手順
もし現在、パスワードを忘れておらず、正常にログインできる状態であれば、わざわざ再起動やシングルユーザーモードを使う必要はありません。 定期的なパスワード変更などは、以下の標準的な手順で行ってください。
GUI(Configuration Utility)での変更
Web 管理画面から変更する方法です。主に admin ユーザーの変更で使われます。
- Web ブラウザで BIG-IP にログインします。
- 左メニューから [System] > [Users] > [User List] をクリックします。
- 変更したいユーザー名(例:
admin)をクリックします。 - [Password] 欄に新しいパスワードを入力し、[Confirm Password] にも同じものを入力します。
- [Update] をクリックして保存します。
CLI(tmsh / bash)での変更
コマンドラインから変更する方法です。SSH で接続して実施します。
admin ユーザー(tmsh)の場合
tmsh modify auth user admin password※ コマンド実行後、新しいパスワードの入力が求められます。
root ユーザー(bash)の場合
passwd root※ 一般的な Linux と同様に passwd コマンドで変更できます。
まとめ
本記事では、F5 BIG-IP の root パスワードを忘れてしまった場合の最終手段として、シングルユーザーモード を使ったリセット手順を解説しました。
- 前提: コンソールアクセス(物理ケーブルや仮想コンソール)が必須。SSH は不可
- 手順: 起動時の GRUB メニューで
singleを追記して起動し、passwdコマンドを実行 - 注意: サービス停止(通信断)が発生するため、作業時間には注意が必要
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。
