はじめに
F5 BIG-IP の運用において、設定情報のバックアップは基本中の基本です。 しかし、「定期的に UCS ファイル(バックアップ)を取得しているから安心」と思っていませんか?
実は、機器故障によるハードウェア交換(RMA)などで別筐体に載せ替える際、「手元にある UCS ファイルをただリストアしようとしてもエラーで失敗する」 というトラブルが後を絶ちません。 その最大の原因は、暗号化に使われる 「マスターキー(Master Key)」 の不一致です。
本記事では、通常のバックアップ手順に加え、いざという時に「リストアできない!」と青ざめないための必須知識である「f5mku」コマンドの使い方も合わせて解説します。
- UCS バックアップ / リストアの基本手順(GUI / CLI)
- リストア失敗の原因 No.1「マスターキー(f5mku)」の仕組みと移行手順
- 異なる筐体へリストアする際の注意点(RMA 対応)
BIG-IP のバックアップファイル「UCS」とは
F5 BIG-IP の設定バックアップには、UCS(User Configuration Set)という形式が使用されます。 これは単なるテキストの設定ファイル(コンフィグ)ではありません。
システム全体を復元するために必要な、以下の重要データを丸ごと圧縮して固めた 「アーカイブファイル(拡張子は .ucs)」 です。
- 設定ファイル:
bigip.confなど(IP アドレス、Virtual Server 設定など) - SSL 証明書と秘密鍵: HTTPS 通信に必要な証明書データ
- ライセンスファイル: 機器の使用権限情報
- ユーザーアカウント: 管理画面のログイン情報
- ログやシステム設定: トラップ設定やホスト名など


テキスト形式のコンフィグ(SCF など)だけでは、SSL 証明書の実体が含まれないため、障害時の完全復旧ができません。 そのため、BIG-IP のバックアップといえば、基本的にはこの UCS ファイルを取得すること を指します。
【重要】リストア失敗を防ぐ「マスターキー(f5mku)」の話
BIG-IP のバックアップ運用で、多くのエンジニアが躓くのが 「別筐体へのリストア失敗」 です。 その原因のほとんどは、「マスターキー(Master Key)」の不一致 にあります。
BIG-IP はセキュリティ強化のため、設定ファイル(bigip.conf)に含まれる「パスワード情報」や「SSL 秘密鍵のパスフレーズ」などを、平文ではなく暗号化して保存しています。この暗号化に使われている鍵が マスターキー です。
- 同一筐体へのリストア
-
キーが変わらないため、問題なく復号・リストアできる。
- 別筐体(RMA 交換品など)へのリストア
-
機器ごとにキーが異なるため、UCS 内の暗号化データを復号できず、設定読み込み時(Config Load)にエラーが発生する。
これを防ぐためには、UCS ファイルだけでなく、マスターキーそのもののバックアップと移行 が必要になります。
マスターキーの確認とバックアップコマンド(f5mku -K)
バックアップを取得する際、必ず以下の CLI コマンドを実行して、現在のマスターキーを確認・保管してください。 ※UCS ファイルの中にマスターキーの情報は含まれていません!別途メモが必要です。
実行コマンド(CLI)
f5mku -K出力例
(tmos)# f5mku -K
O+Qd3/8w/s+Z0... (ランダムな文字列が表示されます)


この出力された文字列がマスターキーです。この値をテキストファイルなどにコピーし、UCS ファイルと一緒に厳重に保管してください。
マスターキーのリストアコマンド(f5mku -r)
故障交換などで新しい筐体(代替機)に UCS をリストアする場合、UCS をインストールする前に、保管しておいたマスターキーを新しい筐体に適用します。
実行コマンド(CLI)
f5mku -r <バックアップしておいたキーの文字列>実行例
(tmos)# f5mku -r O+Qd3/8w/s+Z0...


コマンド実行後、エラーが出なければ適用完了です。 これで新旧の筐体でキーが一致したため、UCS ファイルからのリストア(復号)が正常に行えるようになります。
バックアップ手順(GUI / CLI)
UCS バックアップは、Web ブラウザ(GUI)から行う方法と、コマンドライン(CLI)から行う方法の 2 通りがあります。 通常は GUI で問題ありませんが、作業効率化のために CLI も覚えておくと便利です。
GUI での手順
直感的に操作できる方法です。作成したバックアップファイルは、必ず PC 等のローカル環境へダウンロードして保存してください。
- 管理画面へログインし、メニューから [System] > [Archives] を開きます。
- 画面右上の [Create] ボタンをクリックします。


- File Name に任意の名前を入力します(例:
backup_20230529)- ※ Private Keys のオプションは通常
Include(含める)のままで OK です。
- ※ Private Keys のオプションは通常
- [Finished] をクリックすると、バックアップ作成処理が始まります。


- 完了後、一覧に表示されたファイル名をクリックし、[Download] ボタンを押して PC に保存します。



【重要】 BIG-IP 内に置いておくだけでは、機器が全損した時に取り出せなくなります。必ず外部へ保存しましょう。
CLI での手順
SSH で接続して実行する方法です。コマンド一発で完了するため、手慣れたエンジニアはこちらを好みます。
実行コマンド
tmsh save /sys ucs [ファイル名]実行例
# 日付付きのファイル名で保存する場合
tmsh save /sys ucs backup_20230529.ucs- 拡張子
.ucsは省略しても自動的に付与されます。 - 作成されたファイルは、BIG-IP 内の
/var/local/ucs/ディレクトリに保存されます。WinSCP などを使って PC へ取得してください。
リストア手順(GUI / CLI)
UCS ファイルを使った復旧手順です。 同一筐体へのリストア(設定ロールバック)であれば「手順2」だけで済みますが、機器交換の場合は必ず「手順1」から実施してください。


マスターキーの適用(別筐体の場合のみ)
故障交換などで「シリアル番号が異なる別の筐体」にリストアする場合は、UCS を読み込む前に必ずマスターキーを移行します。 ※これをスキップすると、設定読み込み時に decryption failed 等のエラーが発生し、正常に起動しません。
- SSH (CLI) で新しい BIG-IP にログインします。
- 以下のコマンドで、事前にバックアップしておいたキーを適用します。
f5mku -r <バックアップしたキー文字列>- エラーが出なければ完了です。
UCS ファイルのアップロードとインストール
キーの準備ができたら、UCS ファイルを読み込みます。
GUI で行う場合(同一筐体への戻しにおすすめ)
- [System] > [Archives] を開き、[Upload] から PC 上の UCS ファイルを選択してアップロードします。


- 一覧から対象ファイルをクリックし、[Restore] ボタンを押します。


- 確認画面が表示されるので実行します。システムが再起動し、設定が反映されます。
CLI で行う場合(RMA・機器交換におすすめ)
特に機器交換時は、ライセンス周りのトラブルを避けるため、CLI での実行を推奨します。
- WinSCP 等で
/var/local/ucs/配下に UCS ファイルを転送します。 - 以下のコマンドを実行してリストアします。
tmsh load /sys ucs backup_20230529.ucs代替機への移行時は、バックアップ元のライセンス情報で上書きしてしまうと、新筐体のベースライセンスと不整合を起こす可能性があります。これを防ぐために no-license オプションを付けます。
tmsh load /sys ucs backup_20230529.ucs no-license


※このオプションを付けると、設定情報は復元されますが、ライセンスファイルだけは現在の筐体のものを維持(または除外)します。
リストア後の確認ポイント
リストアが完了し、機器が再起動してきたら、以下のポイントを確認します。
ステータス確認
CLI または GUI の左上を見て、ステータスを確認します。
- Active: 正常に稼働中(単体、または HA のアクティブ機)
- Standby: 正常に待機中(HA 構成のスタンバイ機)
- Offline / Inoperative: 失敗しています。マスターキーの不一致等を確認してください。
接続確認
- 設定した Management IP で GUI/SSH に接続できるか。
- Virtual Server の IP アドレスに対して Ping や通信が通るか。
まとめ
本記事では、BIG-IP の UCS バックアップとリストア手順について解説しました。
- 設定だけでなく、証明書やアカウントも含まれるアーカイブファイル。
- UCS にはマスターキーが含まれない。別筐体へのリストアには、必ず
f5mku -Kで確認したキーが必要 - 機器交換時は、ライセンスを除外してリストアすることでトラブルを回避できる。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。


